ずっと、ずっと、あなたのそばに… 若月かおり著■ (小学館文庫)
市川拓司の『いま、会いにゆきます』の映画化脚本をもとに書きおろした作品。29歳の澪は家族3人の楽しい生活を送っていた。しかし澪に突然つきつけられた悲しい運命。学生時代の巧と澪の知り合った頃の話から文通をとおして深まった愛、失う命と分かっていてもを愛する人のもとへと走っていく様子を繊細に書かれている―。


原作を知らないので、話がつかみにくく、
自分ながらに頭の中で構成して読みました。
2人をつなぎ止める深い愛に感動しながら、
自分にもあった感情として懐かしさが甦ってきます。
学生時代の距離をおいての文通で、2人のおかれている状況や、
2人のそれぞれの気持ちが分かることができるのですが、
そうじゃないのよ〜、違うってと気持ちの行き違いに
もどかしさもあり切なさが感じられました。
愛って素晴らしいな、汚れのない愛っていいなと思いました。
私は手放しで良かったよ、というより静かに良かったと言いたいです。
『いま、会いにゆきます』が読みたくなってきました。


オカルト… 田口ランディ著■ (新潮社)
小さな頃から不思議なことが好きだったランディさん。これと言った霊感もないけれど、気配を察知する能力だけが人並み以上にあるらしい。そのランディさんの周りで起こる摩訶不思議に面白いエッセイや、創作作品がテンコモリ。


どこからが本当の話で、どこからが作られたのと戸惑いました。
しかしそんな全てが賑やかで楽しい話が多く、
身近にあるような話で親しみやすくて読みやすかったです。
ランディさんの表現て分かりやすいので、好きです。
印象に残っているのは「世界には何でも落ちている」で、
じつに珍しいものというか、不思議なものが落ちているもんだなあって、
もっと落し物に気にしていれば、人生観が変わるようなものもあるかも。
でもこれもホントにあった話かそうでないのか分からないのよね―。
物を拾うって勇気がいるんじゃないかと思いました。
読んで疲れなくて、私は好きな本です。


庭の桜、隣の犬… 角田光代著■ (講談社)
30代の子供なし夫婦。35年の住宅ローンを抱え傍目には幸せで頑張っているように見えるけれど、宗二と房子は夫婦じゃないみたい。宗二は別にアパートを借りているし、房子もそれを不思議な感覚で容認している。夫婦でいる意味はあるのか、2人の幸せはどこにあるのか―。


この夫婦関係、どこか我が夫婦と似てます。
幸せがあるはずの家庭なのに、その幸せは外にあって、
けじめもつけているのに、どこか落ち着かない生活を2人は送っています。
しかし、夫婦のかたちはひとつではないと思うと、気分が安らぎます。
不安な話だけど、どこか安心して面白く読める話でした。


男の始末… 藤堂志津子著■ (講談社)
2度の離婚を経験している美衣子。今は内縁の夫の青野桂次と母の桐と同居している。
青野にはルームシェアをしているだけの何の感情も持っておらず、行動もそれほど気にならなかった。しかし、昔、好きだった同級生が、今は脳に障害を持って生きているということを知った美衣子は心から世話をしたくなってしまう。けれども青野は家を出ていってはくれない―。中年女性のちょっと怖い恋愛小説。


タイトルに惹かれて読みました。始末をするのってどんなの、と興味がありました。
50歳になる美衣子には2人の子供がいるのですが、
その2人とも相手に恵まれず、行ったり来たりと彷徨い続けている、
じっとしていない一家なんですけど、前向きに明るくって好きです。
中年女性の恋愛話は、あまり読まなかったけれど
潔く大胆でなかなか味わい深いものを感じ面白いと思いました。
最後のオチにはぶるっとふるえてしまいますが、
いつにもない読後感に最後まで引きずり込まれ面白かったです。


私が語りはじめた彼は… 三浦しをん著■ (新潮社)
大学の歴史学科村川教授の数々ある恋愛話なのですが、本人の話は全くなく周りの人たちの言葉だけで綴られる連作短編小説。村川教授とは一体どんな人なのか、またつき合いを深め合った相手は彼の心をしっかりと掴みきることができたのか―。


本人ではなく周りにいる人々が、村川教授のことを語って、
本人像を想像していくところが、新鮮味を感じられ面白かったです。
自分がどんな人間なのか、皆はどんなことを思っているのか、
ふだん気にはしなくとも、きかっけがあれば気になります。
連作短編ミステリなのですが、心理小説は私の苦手分野。
相手の出方をみるというのが好きではないので、最初の話は進まなかったなあ。


しをんさん初挑戦でしたが、自分に合うものも見つかるはず、
他の本も少しずつ読んでいきたいと思います。


青空のルーレット… 辻内智貴著■ (筑摩書房)
「俺」たちは、高所窓硝子特殊清掃作業員をしている。窓を拭くのはメシを喰うため、家賃を払うためだが、誓ってもいいことは夢を見続けるためだ。夢がある仲間が作業員として集まり、ひとつのことに向って助け合い頑張っていく姿を描いている。仲間を大事にし助け合っていく希望あふれるれる話。


ひとつの目標に向かって頑張って行くって夢があって、励まされました。
辛い仕事も目的があるから続けられるしていく人たちを見ていると、
とても気持ちがよく、応援したくなってきます。
タイトルからキレイごといっぱい、という印象を受けるのですが、
山あり谷ありの話で、時たま涙ありのとてもステキな話です。
文庫にもなっているので、だいじにまた読み返したいな。


孤独か、それに等しいもの… 大崎善生著■ (角川書店)
気がつけば魂の籠に捕らえられている状況が続いている―。その籠に小さな頃から自分の中で暴れだしそうなありとあらゆる観念をひたすら投げ入れ閉じ込めている。そして大人になった今でも溜め続けその籠を自ら開こうとはせず、気付けば投げ込むものが何も残っていなかった。母親に見捨てられ孤独と憂鬱を抱えながらも恢復し再生を果たす―【ソウルケージ】 他4編の短編集。


辛い真実を受け入れることは、苦しく勇気がいります。
ですが、それから逃げているばかりではいけないし、
いずれはどういうカタチであれ受け入れなければいけません。
そこには失う怖さはあるものの、また新たに生まれる希望もあるということを
大崎さん流の、スマートで自然に溶けて入ってしまうような
透明感あふれる言葉で書かれいます。
5つの短編のどの作品も、主人公の感覚で捉えた雰囲気みたいな話で、
今は見あたらないけど、そこには確かに存在していたという、
手にできない大切な何かを感じました。


いつもですが、話全体に表現される静寂さと研ぎ澄まされた雰囲気が好き。
独りの時間にひっそりと味わって読みたい本です。


社長をだせ!ってまたきたか!… 川田茂雄・森健■ (宝島社)
同じ人が毎日かけてくる電話、クレームおばさんの「たかりの証拠」、本の返却に来る困った人たち、ネットで告発する人々…。いろんな業種の方々が経験されたクレームをめぐる話を、ルポライター森健さんが取材し、川田茂雄さんがワンポイントアドバイスをつけている。


クレームを言うお客様は、種類色々で実にさまざま。
人生相談のようになることもあれば、恐喝まがいのものもあるし、
商品のグレードアップを求められたりと、お客様相談係の方や、
その処理に携わる方々対応の苦労が窺えました。
私もこのお客様係なるものをやった経験があるのですが、
3,4件ほど忘れることができない恐ろしい話を持っています。
しかしながらそれもこれも、お客様のクレームが必要以上に大袈裟になる理由は、
メーカー側の最初の対応のまずさによるものだと実感しました。
端的に言うと、クレームがクレームを呼んでしまうことです。
人と人との関係が希薄になりつつある世の中だけれど、
反対にちょっとした言葉で人の心は敏感に反応してしまうようです。
お互いに人の立場に立ち、考えて喋ることが大切だとしみじみ思いました。


消費者の方々、この様々なクレームを読んで、
自分もやってやろうとお試しにならないよう、願いたいものです。


なぎさの媚薬… 重松清著■ (小学館)
なぎさは娼婦だった。ある日突然現れたかと思うと、たてつづけに姿を現すことがあるという気まぐれな仕事ぶり。なぎさは客を選び、客のほうから会いたいと思っても波長が合わない限りは会えない―まるで幽霊みたいな存在だ。自分(なぎさ)を買い、むさぼり尽くした後、男たちに少年の頃の夢を見させる―そうセックスの夢だ。そうして語られる高校から大学時代に戻る『敦夫の青春』と中学生に戻る『研介の青春』の2編―。


これまた『愛妻日記』をうわまわる性描写たっぷりの話でした。
ですが、愛妻日記よりもストーリー性があり、
重松さんらしいせつなさを漂わせています―。
―人の話を聞いてあげ、それに応えるなぎさがいる…。
少し言わせてもらうなら『研介の青春』は、
前置きが長く、悦子先生が「なぎさ」に化けたのかと思いましたよ―。
(って、この話は嫌だけれど、
私の心のどこかでなぎさを心待ちにしている部分があったのかしら)
そして。2つの話には過去を振り返るシーンがあるのですが、
流星ワゴン』に酷似しているかな。
その話と比べてみると今回は救われる感じ。
しかし、アダルトなもんで、いやはや何とも…。
男性が読むには共感することが多いかもしれないけれど、
なぎさのかしずく姿は女性の感情を逆撫でするかもしれません。
もうこれで目を覆いたくなるエッチシーン止めてください、重松さん。


雨はコーラが飲めない… 江國香織著■ (大和書房)
江國さんが飼っている愛犬アメリカン・コッカスパニエルの「雨」と江國さんが気に入って聴いている好きな音楽を紹介して語られるエッセイ。


洋楽を多く聴かれている江國さん。
私には馴染みのないタイトルの曲やアーティスト名が出てきました。
最初はつまらなく途中挫折してしまうかと思ったのですが、
雨の音楽を聴くしぐさ、またそれを可愛がっていらっしゃる様子が、
とても微笑ましくて除々にのめり込んでいきました。
江國さんから見た雨の気持ちと、
雨から江國さんを見て多分こう思っているんだろうと、
江國さんが想像して著しているところから良い関係を育んでいることがうかがえます。
いたずらばかりしている子犬が年を取り病気を患うようになっても、
共に病気を怖れることなく、これからのさらなる出発を新鮮な思いで過ごすふたり。
寄り添い共有できる時間を大切に、
助け合っていく素晴らしさを分からせてもらえました。
ほのぼのとしたひとときを味わいたい時に読みたい作品です。


悪魔を憐れむ歌… 蓮見圭一著■ (幻冬社)
戦後もっとも凶悪犯罪と言われる「愛犬家連続殺人事件」のノンフィクション小説。ペットショップを経営する凶悪犯関根元が犯した事件の全貌を、当時役員を務めて死体損壊遺棄にも携わった山崎が語る。


1995年1月5日に主犯格山崎が逮捕された凶悪事件なのですが、
阪神大震災の影に隠れ、あまり思いだしもできずに読みました。
人間とは思えない冷血さを持ち、計画的で冷静沈着な犯行には、驚くばかり。
嘘の上塗りを続けてその場を切り抜け、また別のところで嘘をつき、
うるさい者は挙句の果てに命を奪ってしまうという、とんでもない現実。
ふと思ったのですが―、
この本がノンフィクションというならば、中に実名があがっていた笹川良一氏が
関根と関わっていたという話もかなり信憑性が出てきますが、
真実はどうなのでしょう、本当なのか嘘なのか…。
関根みたいな人と関わりになれば、明日は我が身と鳥肌が立ってしまいます。
生々しくって衝撃続きの話に眩暈がしました。
みなさんにこの悪夢的な現実を確認していただきたいものです。


太陽と毒ぐも… 角田光代著■ (マガジンハウス)
好きで付き合い出した彼女だけど、当初は思ってもみなかった個性的なところを日々つきつけられるうちに、我慢ができず別れという言葉が芽吹いてくる―。お風呂に入らない娘だったり、ジンクスにいつも縛られている娘だったり、万引きを繰り返す娘だったり―でも一緒に過ごした年月からみれば別れるまでのことではないかもしれないと考え直す―。こうした色々なだらだらな関係を続けて行くカップルの話が11編。


人ごととして読んでいれば面白いのですが、
自分にも当てはまる話があるときには、ちょっと気分が悪くなります。
しかし、悪気がないので面白く、また教訓となるようなこともありました。
憧れの人だなと思って付き合っていたのに、いざ近くに居るようになると、
気になってしょうがないところが見えてくる、ということは誰にでもあることですが、
ここに出て来る男性方の考え方の方向転換が実にウマイ!
愛するとはどこまで相手のことを許すことができるか、言葉を変えれば、
嫌な部分には目をつぶり、その部分をカバーする良い面を誉めてあげ、
そこをずっと好きでいてあげれることだと私は思っています。
この小説には、その良い面を見続けてあげる男性方の優しさがあります。
全体的にだらだらと続く恋愛関係だけれど、
飽きのこない心地良さが伝わってきた作品でした。


銀行籠城… 新堂冬樹著■ (幻冬社)
あさがお銀行に籠城した五十嵐。行員と客を人質にとり、これといった要求はなく抵抗した者は容赦なく射殺していく。どんなことにも屈しない犯人と電話で立ち向かう警視庁の五十嵐―解決策はあるのか、そして人質は無事救出されるのか…。


のっけからの緊張しっぱなしの展開でした。
籠城という緊迫感した状況の中にも関わらず、
警察や銀行の上下関係の煩わしさや虚しさなどが色濃く見え、
出世コースにいる者とそうでない者の葛藤や責任転嫁など
人間のクロい部分がいやらしくも巧く書かれています。
極悪非道なまま終わってしまう酷い話…かと思いましたが、ノー。
冷血で人間の血が流れていないような五十嵐の犯行なのですが、
せつなく人間っぽい面も見せる場面があるんですね〜、ぐっと胸にきました。
現実に起こりうるかもしれない犯行が怖いけれど、
たまには震えあがらせる話もまた良し。私としては満足できた作品でした。


幻覚… 渡辺淳一著■ (中央公論新社)
36歳独身の美人精神科医、花塚氷見子は2つの病院を経営している。患者から人気があり病院のスタッフからも憧れの存在。その氷見子先生の片腕に選ばれた31歳看護師、北向健吾も例外ではない。北向は思いを寄せ必至になる一方、病院内の後輩から特定の患者に過剰な投薬行為をしているとの相談があり困惑する。なぜ氷見子先生はそんなことをするのか、心裏には何があるのか、そしてく末は―。


読売新聞に掲載されていた作品で、大幅に加筆されています。
(…と言っても読んでいないので比べることはできませんでした)
新聞に掲載されるくらいだから、掲載できないような突拍子もない描写ではないと
想像できました。しかし、いつもの妖艶さはりました、いたって真面目な話ですけど。
渡辺氏と言うと「桜」がよく出てくるのですが、この話も最初から、
氷見子先生が桜の枝をポキンと折って口にくわえるシーンが出てきます。
でもその桜が咲いている場所は墓地・・・とっても意味深、そして艶やか。
その先生に恋心をよせている北向(通称北風)くんは、
先生の言葉には絶対服従するし、過剰な投薬の現状を見ても信じず、
もう周りが見えていません。
この努力や希望が傍目から見ているとおかしく、妙な懐かしさを感じることができました。
最後まで読まなくても想像がつく話ですが、
会話を通して氷見子先生の闇(病みかな)が暴かれていく様子がおもしろかったです。


500ページ近くあるので、読み終わったら脱力感でぐったりしたけど満足な味わいでした。


ブラフマンの埋葬… 小川洋子著■ (講談社)
夏のある日、僕のところに傷ついたブラフマンはやってきた。森の生き物、命名ブラフマンは水かきやひげがあったが、見つけられた時にはひどく汚れその存在も分からないくらいだったが、僕に介護されるうちに元気になっていく。世話をやき教育され次第に心が通いあうようになるが、ふたり共通の僅かな時間は音もなく除々に消えてゆく―。


タイトルが「埋葬」ですもん、気になるし何となく想像もつきます。
が、この話は気になることだらけ―。
「森の生き物」とだけ書いてあり明確なことが書いてありません。
自分の想像した動物を連れて最後まで読んでいくので、
読み手まかせな生き物を成長させてしまいます。
ブラフマンの他にも静かな出あいがあり、そしてあっけない別れがあり
愛しくせつない話でした。
ひとつ言わせてもらうなら、僕が好きなスーパーの女性には不満がたらたら。
あっという間に終わってしまう本だけど、静謐な時間を過ごさせてくれる本でした。


卵のふわふわ… 宇江佐真理著■ (講談社)
「正一郎」の家に嫁いだ「のぶ」だったが、数年経つうちに心の行き違いが多く仲は冷えきっている。しかし、心根の優しい姑や食通の舅に助けられ、のぶの気持ちも次第に変化をみせていく―。


とっても美味しそうなタイトルです。
料理別に連作短編になっているのですが、
どれも作ってみたくなるものや食べてみたくなるものばかり―。
舅は昔から美味しいと思ったものを「物覚え帖」につけていたのですが、
それを見せて「のぶ」に作らせます。
その料理に出てくる思い出ある味や話にのぶも引き寄せられ、
舅は我侭な正一郎を育ててしまったことも交えて詫び、のぶの心を氷解させます。
そんな優しい言葉をかける舅の一方で、正一郎の冷たい言葉と言ったら…。
―好き嫌いの激しいのぶに「そんなに食べたくないのなら、死ね」なんて言うんですよ。
正一郎に昔、ある事情があったのは知っているんですけど、
この言葉はないでしょう…この後どんな良いことを言われても私だったら離婚します!
そう思うと、のぶは我慢強い人だな。


時代ものは久しぶりで、よく分からない単語も出てきたけれど、
ページを繰るたびにお料理の香りが広がる作品でした。


ランドマーク… 吉田修一著■ (講談社)
大宮に建設される地上35階建てのスパイラルビル。そのビルの設計をした犬飼と、そこで鉄筋工として働く隼人の運命を描く。


いきなり「Number10」から始まり、
以前読んだ真保さんの「ストロボ」を思い出してしまいました―。
同じビルに携わる2人、喋ることもなくそれぞれの人生を送っていて、
2人が交わることはないのですが、どこか共通するものがあります。
ひとつ、またひとつと階を増やしていくビルで
階が高まるにつれて見えてくるもの決意すること、
ビルにかける思いもその時々によって違っていくところが、
個人の生活観や環境を通してうまく描写されていました。
この登場人物たちですが、気持ちが不安定で、
危なっかしい人ばかりで構成されていて、
次にはどんなことが起こるのか想像するのが怖く思えてしまいます。
でもそれが、話を単調にさせないのかな。
ランドマークをひとつの賭けとして挑む、熱い男たちが見える作品でした。


Q&A… 恩田陸著■ (幻冬社)
郊外型ショッピングセンターで起きた死者69人、負傷者116人の事故。有毒ガスや火災が発生したという話があるものの、その痕跡も見あたらず原因がさっぱり分からない。質問する人とそれに答える人で当時の様子を説明し話が進む―。


タイトルのとおりQ&Aで事故に迫る、今までにない変った趣向でした。
テンポよく話が進行するので、ぐいぐい引き込まれやすかったです。
人間の心理というものは面白いもので、
理由が分からなくても、人が逃げている姿を見て、
自分もつい一緒になり走って逃げてしまうことがあります(私だけかもしれないけど)。
危険から避けれるだろうという気持ちが
往々にして集団行動を起こしてしまい被害が拡大し大惨事に。
いろんな話から真実を探りつづけ、納得させらる頃、
新たな話が生まれ最後は思わぬ所に行き着きます。


今回の恩田作品ですが、いつもと違う感覚があって結構好きでした。
読みやすいし、恩田さんをまだ知らない方にはこの本がお勧めです。


臨場… 横山秀夫著■ (光文社)
倉石義男は「終身検死官」の異名を持つ捜査一課調査官。鋭い目で挑む彼の検死は黒星の率が高い。あらゆるところから可能性を引出し、死者の末路を探る―8つの連作短編集。


警察という組織の中に身を置いていても、もろともせず我が道を行く倉石。
その眼力はタダものではなく、
冷静沈着な目に、結果がひっくり返ってしまうことがよくあります。
しかし、私事では女性関係で刃傷沙汰の修羅場もくぐりぬけているとか、んー!マンダム。
倉石は厳しい口調で荒っぽい所も多いのですが、亡くなった人に優しい、
部下を大切にする、人間くさい愛らしい人だったんです。
推理も素晴らしく、納得がいく結末に尊敬するやら涙がでるやら。
私がもし変死したら、倉石さんにお願いしたいものです。
横山さんの警察小説、まだまだ楽しめそうです。


「分かりやすい文章」の技術… 藤沢晃治著■ (講談社)
文章には小説やエッセイなどの芸術文と意見や情報、研究の成果等を伝える実務文があります。この本は、後者の実務文の書き方を指南してくれるものです。趣旨を素早く伝える技術や読む気にさせるレイアウト、文章をなめらかにする技術など、仕事の上や電子メールで使えるワザが懇切丁寧に書いてあります。


文の分かりやすさのワザだけに触れているのかと思いきや、
脳の記憶構造をヒントに文を作るポイントが書かれてありました。
既に持っている(経験している)情報を引出させるような書き方を
すると理解しやすかったり、文章を分解すると難しかった文が、
魔法がかけられた様に実に簡単な文章になったり。
ここで分かりやすく読みたい文章を書くコツが分かれば、
反対にあまり読まれたくない文章(保険の契約書等)が
どのような書き方になっているかも理解することができると思います。
日常で使える本だけに厳しい目で、納得しながら読める1冊でした。


卵の緒… 瀬尾まいこ著■ (マガジンハウス)
小学生の育生は周りの人たちの反応から、自分が捨て子だということを感じていた。ある日、担任の先生からお母さんと子どもを繋いでいるという「へその緒」の話をきき、母にそれを見せてくれるように頼む。しかし母が見せてくれたものは卵の殻だった―。


「捨て子」という冒頭のイメージから、寂しさが感じられたのですが、
育生を育てている母親、そして育生の両者がそのことを明るくとらえています。
素直な育生は母親を理解しようと一所懸命になるし、
母親は子どもの全てを受け入れる準備が既にできています。
血が繋がっていないからこそ見えるものがあります―
―2人の間には「へその緒」よりも大切な深い絆がありました。
周りの人の温かさや思いやり、普段はあまり感じない一番だいじなものに
あらためて気付かせてくれる、ほのぼのとした作品で私の勧めです。


東京タワー… 江國香織著■ (マガジンハウス)
耕二と透は高校時からの親友で現在大学生。どちらも年上の女性に本気になっている。耕二のその部分は透の影響を受けているものの他恋愛関係にも手広くやっていて何かと問題も多い。一方、透は叶わぬ一途な想いを受け身で応えずっと心を痛めている―。


江國さんの書く恋愛は、女性側ばかりなのかと思っていたら、
男性側の話もあったとは知りませんでした。
耕二の生活を見ていると、あるテレビ番組を思い出してしまいます。
本人には洒落にならない三角関係のまずい話―
―読み手としてはかなり面白くはまりました。
透は反対に澄みきっているという印象を受けたのですが、
大胆なところも持ちあわせています。
この性格の違いが最後まで話を飽きさせません。
映画になった時、装丁のロマンティックな東京タワーが
どのような色をプラスして話を染め上げてくれるのか楽しみです。

青年たちのほろ苦い恋愛と大人っぽい女性の雰囲気が漂う作品でした。


ジャージの二人… 長嶋有著■ (集英社)
作家を志望をしている「僕」と、二度離婚してカメラマンを生業としているが夏は働かない「父」とが、標高1100メートルの携帯電話も通らない別荘で、涼しい日々をゆったりと過ごす―。


憧れました、このアンチ・スローライフな日々。
些少…いえ多少、お金が心配になってくる話でもあるんですが、
心地よい生活が送れているように思います。
ジャージを来て別荘に暮す、はゆったりとしていいと感じるのですが、
この「ジャージ」がねえ…。そのことよりも、
「僕」も「父」も夫婦のことを考えなければならない立場であります。
彼らなりに(主に「僕」ですが)考えていることがあるのですが、
その思いに刹那的に私もつい納得してしまうのですが―考えてみればちょっと違う。
しかし、都会を外れ人波を避けてるぶん、
少し不自由だけれど自然とともに暮しているぶん、
少しゆっくりと考えると、別の考えが思くってもんです。
…何かを考える時は、し〜んと閉ざされた安全な所を確保しときたいですね。
時間を忘れたい時、少しのパワーが欲しい時に読みたい1冊です。


笑う招き猫… 山本幸久著■ (集英社)
若手漫才コンビの『ヒトミとアカコ』はまだ名前がそれほど知れ渡っていない。生活費を稼ぐため、ヒトミはアルバイトをしている一方、アカコは豪邸で贈り物に埋もれそうになりながらの生活をしている。環境に違いがありながらも、2人共通の夢は「ヒトミとアカコでずっと漫才をやっていく」だ。しかしそれも山あり谷ありで2人の心は揺れ動く―。


第16回小説すばる新人賞受賞作です。
とても話のテンポが良く読みやすく、
お腹を抱えて笑うほどに可笑しくて新人賞なんて嘘みたい―。
話の中でよくアカコが自作の歌を歌ってくれるのですが、
めちゃめちゃ可愛くて、それを引き継ぐヒトミもまた面白い歌にしてくれます。
自分の気持ちが乗っているのに、そうでない相手のやる気を喚起させていく
コンビネーションの良さが、その関係を持っていない私には羨ましくかったです。
いちど2人の成長していく姿を読んでやってください。
きっと友情っていいな、と思います。


図書館の水脈… 竹内真著■ (メディアファクトリー)
村上春樹氏の『海辺のカフカ』に導かれ、カップルのナズナとワタルは四国へと旅に出る。そこへは偶然にも、その本を片手に旅に出ている売れない作家甲町岳人がいた。2つのそれぞれの話がひとつの出会いへと交わり、旅は彼らの忘れられない永遠の思い出へと繋げていく。


読書をする人にはぜひ読んでみてね、の1冊だと思います。
読書を通して同じ気持ちに浸れる、繋がり合えると言う思いは、
ここの話ですが、ネットを通して知り合った人たちと似ているような気がするし、
司書さんの仕事が少しでも理解できる話でもあるからです。
1冊の本を手に取って旅に出る、そして本に書いてあったことを確かめる
―そういうこと、いちどやってみたいな。


語り女たち… 北村薫著■ (新潮社)
空想癖がある「彼」は、全国の雑誌や新聞に実体験をした幻想的な話をしてくれる『語り女』を募集した。海辺の街に小部屋を借りた彼の前で語り女は1人ずつ話し始める。


この1人1人に語らせるという発想が面白く、
ミステリアスな話を17つの話も作れたということが凄いです。
女性それぞれの話の入り方、それと終わり方の技巧が私は好き。
中でも、謎が謎をよび最後は読み手の判断で、と読み手任せにさせてくれるのが
消化不良にはなるけれど、想像を逞しくできるのがいいです。
話の短いのには残念な気もしますが、くどくなくって良かったのかも。


スイートリトルライズ… 江國香織著■ (幻冬社)
聡との結婚生活に不満があるわけではないのに、何故か物足りなさを感じてしまう瑠璃子。聡のことをいつも思っているのに、春夫と居ると心地が良い。聡も瑠璃子に飽きがきたわけじゃない。しかし、しほと居るといつもの自分らしくなく活き活きしていることに気付く。この2人の生活の行方は―。


装丁とこの小説、写真なのですがすごくマッチしているなと感じます。
というのも、可愛い白いベアなのに何ごとにも動じない様子が、
瑠璃子の内面とどこか似ているようで恐さが漂ってくるのです。
瑠璃子も聡も心の中では、一番大切な人は誰か分かっていて、
一番心地いいのも分かっています。
しかし、違う行動をとってしまう不条理さがあり心が痛いです。
かなり危険な綱渡りを見せる場面がありハラハラしたのですが、
昼のTVドラマになったらいっそう面白いんじゃないかな。
夫婦生活を営む上での微妙なひずみが、
ある日突然別のカタチで芽吹く可能性ってありそうですね。
女性の考えることの恐さが見えてくる1冊でした。


アッシュベイビー… 金原ひとみ著■ (集英社)
22歳のアヤは大学を出たものの、まともな就職活動をしなかったせいでキャバ嬢となり、大学の友人ホクトは出版会社へと就職。その2人が何だかんだあってルームシェアな生活を送っている。そのホクトがある日、会社の村野さんから「接待に使える店を探してほしい」と言われ、アヤの店を紹介する。アヤは店に来た村野さんをひと目見たなりから気に入ってしまうが、言葉にしたい言葉を抱えながらも時は過ぎ去って行く。家に帰れば、ホクトもロリコンへと壊れまくり、アヤはどんどん孤独に陥り、実りを見せない恋を至極極端な考えまでに発展させてしまう。村野さんは、そんなアヤの心を分かっているのかどうなのか―。


「愛」からくる複雑なものの詰め込み本、
と言っては何だけれど、かなりの部分が度肝を抜く話でした。
レズビアンの真似をしてみたり、自分の太腿に果物ナイフをつき立てたり、
リストラされる前に金融で金借りろと言ってみたり、かなり非日常しています。
救いも無くはなく、乱暴な物言いや態度をしているアヤだけど、根は純。
一部不器用な面がある所為で、好きな人の心に踏み込めず、
いつも言ったり来たりで、どこか儚げ。
しかし、はっきり言いきってしまえば、アヤは相当迷惑な女性だし、
ホクトだってかなりの異常者、
そして村野さんは、はっきりしない優柔不断の男に見えます。
…これでいいのか、この話―。


お世辞にも心地が良い本だとは言い難く、後味が悪かったです。


弱法師… 中山可穂著■ (文藝春秋)
叶わぬ思い、一途な思いを切なく、またゆるぎなく力強く真正面から見つめ書いた作品3篇―。不治の病に侵される少年が、主治医に義父になって欲しいと願い、主治医も次第に悪化していく少年の看護にあたりたいと思うようになり、少年の母親とも親密になり後に結婚する。しかし少年は親子以上と思われる仲になってしまい母親からも嫉妬されてしまう。少年は、いったい義父に何を求めたのか、目的があってのものなのか―。【弱法師】


中山可穂さんの本を敬遠していたわけではないけれど、
今回は推薦の声も多いので読んでみたところ、
有無もなしに気に入ってしまいました。
わき目も振らず叶わぬ思いを頑として貫く、装丁の能面にぴったりな話で、
生半可な思いではないのがこの恋の恐さを引き出しています。
3篇のどの作品も大事な何かを隠しているという印象を受け、
どれもミステリなのではと思うくらい。
少しクセのある話だけれど、嫌らしくもなく感動を伝えてくれるのが良い。
簡単には言えない怪しさがあって、痛々しさがあって、
最後には、これで良かったんだと納得できる読了感でした。


日々是作文… 山本文緒著■ (文藝春秋)
文緒さんが31歳から41歳になるまでの約10年間を綴ったエッセイです。作家業を営む中で、離婚、文学賞受賞、結婚…などなど、くるくると色んな経験を経て教訓になったこと、或いはどう言われようと変えることができない事など多々、絶妙な語り口で著されています。


作家さんと言えば堅いイメージで、一風変った世界に住んでいらっしゃる、
というような偏見があったのですが、
文緒さんの場合、周りによくいる気さくな女性だと思いました。
私が通ってきた道、過ごしてきた年代ということもあって、
年々落ちていこうとする体力のことや、好き嫌いの好みも似ていて妙に納得。
作家さんだから、どこか私たちとの違いは無いものか、
と読んでいたところ終始一貫しているところがあるんですね〜、
是非、読んで探してくださいまし。
そして、このエッセイを読むと、出版された小説がどの時代のものなのか、
分かるのがありがたかったです。
これを機会に、人生の分岐点とも言える作品ぐらいは、
早々に読んでおきたいなと思いました。


ラストシネマ… 辻内智貴著■ (光文社)
少年は、若い頃東京で映画俳優をしていたという雄さんという男性と出会う。その雄さんは癌で入院し、余命いくばくも無い。ある時、雄さんとの会話の途中に、自分(雄さん)が俳優だった頃に出演していた1本の映画があった、という話を聞く。少年は雄さんが死に旅立つ前に、そのタイトルも分からない1本の映画をみつけだし、見せてあげたいと心に決める―。


早く簡単に言えば、1本の映画を見つけるために親子共々奔走する話なんですが、
登場人物が温かく、書いてある言葉がどれも心に響きます。
ですが、わずか9歳の少年が「その人として生きることの意味」なんていう言葉を
使うのには少々無理があるのではないかと思います―できすぎです。
そして、仕事もせず母親がいない子供の面倒も見ず、毎晩酒を飲んで、
先祖から受け継いだ財産も食いつぶす父親が言うもっともな意見も然り。
それを承知で丸ごと受けとめると、これは心に引っかかるとても良い作品です。
人生の生き様をどのように残して、どのように持っていくのか、
自分はそれが具体的に見えているのか、と考えてしまう話でした。
内容が気に入って読んだのですが、それを裏切らずかなりの満足度。


長崎乱楽坂… 吉田修一著■ (新潮社)
長崎の三村のヤクザ一家の中に、事故で夫を亡くした千鶴がまだ小さい2人の子供、駿と悠太を連れ戻ってくる。繁栄していた頃の三村家は、毎晩賑やかな酒盛りが続いて、家の離れでは男女がもつれ合う―。たが、時とともに衰退し昔のヤクザとして幅を効かせることができず次第に落ちぶれていってしまう。そういう環境の中で男たちの背中を見て育った駿と悠太は、流されつつも自分の考えを持ち、自律の道を切り拓いていく―。


人間臭い話といえばいいのか男臭い話といえばいいのか。
子供たちはヤクザの家に育つばかりに、周囲からも避けられて、
小さいなりにもそれが分かっていることを体で感じています。
感情を抑えながら生き、自分の中に生じる葛藤と闘いながらも、
個々に成長していく姿は、頼もしくもありまた痛ましいところでした。
私が思うに、この話の楽しめるポイントは、
駿の成長過程でみせる僅かながらの世間への抵抗―いじらしいのです。
最後が気味悪く、それとは反対にまた気持ち良く、
ミステリアスになっていて、“締まり良し”みたいなところが良かったです。


いつも思うことに、吉田修一さんの作品には、漂う空気や流れる時間、
その時の臭いが、鮮明に感じ取れることが多くリアル感がたまりません。


1ポンドの悲しみ… 石田衣良著■ (集英社)
同棲解消した時に、醜い争いを避けるように普段から自分たちの持ち物にはイニシャルを書いている朝世と俊樹―。定期的に、彼女のために花屋に花束を買いにくるサラリーマン―。ボランティアのお姉さんの言葉を頼りにバーに通い詰めるスローテンポな女性―。
10編からなる30代の恋をテーマにした短編小説。


20代の勢いがある恋愛ではなく、30代の比較的周りが見えている年代の恋愛。
やはり落ちついてますね、恋も愛も1拍置いているというか、
軽はずみな行動はしてません、出てくる男女は。
若い時に経験した恋のトキメキを残しつつ、
自己責任を持って慎重になる恋愛が30代なのでしょう。
既婚者の私が特に心に残ったのが『十一月のつぼみ』で、
その中の「生活に疲れどんどん乾いていく自分にうるおいを与えてくれるもの」
みたいなところが出てくるのですが、
自分に気付かせないように隠していた自分の本心を
この言葉で目覚めさせられたような感覚がありました。
恋は永遠です、愛は素晴らしいです、いいな。
どろどろせず、さらりと読める、あと味の良い作品集でした。


自転車少年記… 竹内真著■ (新潮社)
生まれて初めて補助輪を外して自転車に乗れた昇平(当時4歳)は、
家の前の道路の下り坂で、勢い止らず、道路下にある昇平と同い年の草太の家に、
自転車もろとも突っ込んでしまう。
その2人の出会いを自転車を通し、
小学、中学、高校…大人へと永遠の友情を育んでいく。


この成長小説に、とても爽やかな気分になりました。
4歳から始まり最後には29歳(?)になるまで、どんな生活を送り、
どんなものを残すことができるのか、読んでいて楽しいです。
普段、自転車に乗らない私でも、風を斬って走る気持ち良さ、
目標を完走した満足感、を分けてもらったような得した気分になりました。
自転車に乗って何を考え決断し、また創造したか、
のちに広く世界のことを見渡す姿は、
よくぞここまで成長したとエールを送りたくなってきます。
そして、昇平と草太の性格が、年を重ねるごとに
少しずつ変化を見せていくところが、この作品の別の見どころだと思います。
かなりの長編(私には)だったので、読むには大変だったけれど、
それだけの希望と感動を与えてくれました。


発芽… 長谷川純子著■ (マガジンハウス)
30代独身女性の堕落した生活の中にある、
恋愛に対する願望や縛りを書いた短編小説集。


話がアダルトっぽくて読むのはちょっとな…と思ってしましました。
しかし、女性たちの根本は正直で健気なところが可愛く活き活きしていました。
女性のあの部分から発芽するとか、イメージレディになったりとか、
突然のアクシデントに見舞われたり、
お金のために妙な仕事をしてしまう女性たち―とても頑張ってました。
男性に、自分の本当の気持ちをうまく伝えることができず、
失敗を恐れ手をまわそうとすればするほど
ドツボにはまる主人公は、手を貸してあげたいくらいで切なすぎです。
何でもこなす器用さを持っているけど、ほんの少しの不器用さが
露わになり自己嫌悪に陥ってしまうまでになってしまうことは、
誰でもあるのに意地悪くそこだけクローズアップされてしまうんですよね。
私とこの主人公たちは生きている世界は随分と違うけれど、
同じ年代のせいか、切羽詰った考え方では共感するところが多かったです。


毒舌で書き方にも嫌味がなくすらすらと読めて確かに面白いんですけど、
やはり、その…あの…アダルト方面で書かれると私は弱いです。
全般的には、楽しい時間を過ごさせてもらえたと思う作品でした。


禁じられた楽園… 恩田陸著■ (徳間書店)
平口捷は天才美術家として有名な烏山響一と同じ大学で
同じ講義を取っていた。
響一は世界でも名の通っている烏山彩城を伯父に持っている。
その彩城の手掛ける作品といえば幻想的で理想に満ちたインスタレーションで、
それは年々巨大化し、資産の山を操るほどの凄さ。
捷には名前を知っている程度の響一であったが、ある日、
響一から伯父の広大な野外の美術館へと誘われる。
そんなに親しくない捷がどうして選ばれたのか、その美術館とは一体…。



これは私が苦手とする幻想ホラーでした。
想像力が乏しく頭の中が追い付いていかず、ホラーなのに怖くありません。
現実と比較してしまって、こんなこと起きないだろうなとか、
こんな奴はいないよ、と気分的に冷めてしまってたところがあります。
しかしながら、恩田さんの作品は静謐な中で話が始まり色彩にも溢れとても綺麗。
どんな風に最後まで色を表現されていくかが楽しみでした。
捷が選ばれた原因や結果は、残念なことに最後まで気にならず、
しっかり味わえなくてごめんなさい、という感じ。悪いけど幻想は私には無理だな。


ダンボールボートで海岸… 著■ (集英社)
大学を休学して母の借金を返すためアルバイトをしているいるボクと、
アトリエで知り合ったハナ、散歩中に知り合った女装したクロの
3人の賑やかだが複雑な共同生活。
それぞれ悩みを抱えつつも明日への夢を持って過ごす、苦くも希望ある話。


第27回すばる文学賞受賞作品です。
そのことを知らず読み始め、ですます調の文体に読み辛く失敗したかな…
と思いつつも暫く読んでみると、若者の感覚がそこかしこに見られ、
感覚が新鮮で彩りがあり、小さくうなってしまいました。
主人公のボクは、大胆な行動をしてるわりには、
心が凄く繊細で今時の切れやすさを持っています。
ほんの少しずれていたら違う道に進むのではないかというハラハラ感、
それについていく仲間の気持ちのバランス感覚が
うまい具合に表現されている作品でした。
文学小説は、深い味わいがあるなあ。


図書館の神様… 瀬尾まいこ著■ (マガジンハウス)
ある出来事で夢を諦めた主人公の「清」(きよ)。
傷ついた心を抱え実家を離れて、とある高校の国語教師として働く。
そこで自分にはどう考えても向かなかいと思われる文芸部の顧問をさせられる。
国語の教師と言えど文学には興味を持てない清と、
この部には勿体無い体型だと思われる賢い部員の垣内君との
図書館での出会い。そこで物語は繰り広げられた。
どっちが生徒でどっちが先生なのか―いつも垣内君教えられてしまう。
傷ついた心を癒すことができるのか、また図書館で見つけ出されるものは…。


これは「ダ・ヴィンチ」のプラチナ本に紹介されていた本です。
どこがそれほど良いのだろう、読んでみれば清の性格も
気になる程ではないけれどきつく、後ろ向き。
ですが、登場キャラの弟や垣内君は優しく真面目で、
清も彼らと会話を交わしていくうちに心にあった檻が壊され、
次第に考えも変わっていきます。
その心の動きに私も心を動かされ、人との出会いっていいな、
人によって傷つき人によって癒されるんだよな、なんてシミジミ思ってしまいました。
何と言っても、この本が良いのは最後です。
「あの言葉」としか言えませんが、あれは確かに心にジンジン来ます。
瀬尾さん、始めて読みましたが注目していきたい作家さんです。


博士の愛した数式… 小川洋子著■ (新潮社)
事故で過去の大部分の記憶を失った数学博士の生活を手伝いに、
「私」は博士の家に家政婦として雇われる。
博士の今の記憶は80分しか持たない―。
毎日、顔を合わせているけれども会う度に、いつも最初からのやり直し。
そういう博士だったが、「私」の小学生の息子の話となると
妙に真剣になり、連れてくるようにと言う。
そこから教え、教えられるバランスを保ちながら、
3人の暖かい思いやりで新しい世界が築き上がっていく―。


緩やかな時間の中に流れる1コマ、1コマを繋ぎ合わせた話だと思いました。
80分の記憶のテープが終われば、また1から記憶していかなければならない、
この果てしないことが終わるともなく繰り返されていく様子が、
読んでいても何とも痛々しく、どこかで良い方向に
リズムが崩れてくれないかなと願っていました。
でもこれが不思議と緩衝材となり、人の心を優しい手で包んでくれます。
普段は人に干渉されないのを好む私だけれど、
互いが互いを支え合って励ましていく人間関係って、やっぱり魅力があります。
数式は根っから苦手ですが、
小説にして違う方向から見ると、面白く感じられる作品でした。


クレオパトラの夢… 恩田陸著■ (双葉社)
事情があり北国に住んでいるの妹を、
東京に引き戻すよう家族に言われてやって来た、という恵弥。
ところが妹は、来たが良いことに、
自分の換わりに、ある男性の葬式に参列して欲しい、と言う。
仕方なく出かけた恵弥だったが、行ってみると自分にも関係ある人のものだった―。
ある男性と妹の関係は、そして恵弥との関係は、
そこから導かれるかのようにでてきた「クレオパトラ」とは?


「それが何なのか」、というのが分からずに読み進めて行く恩田さんの作品。
分からないだけに気になるんだけれども、
有るか無いかもわからないのに読んでいくのは辛いもの。
全貌が見えてくるにしたがって、私の好きな分野(言うとネタバレで危険)
でということもあり、スラスラと読めました。
少し大袈裟に「何」を探し回る妹の質問や、恵弥の過剰な反応には、
可笑しさや疲れが出てくるところもありましたが、
話を盛り上げる材料としては良いのでしょう。
厚さも263ページとそんな厚くないし、これは好きな作品だな。
このタイトル、読んでいく程に意味深・・・かも。


アジアンタムブルー… 大崎善生著■ (角川書店)
彼女を亡くてからというもの隆二は、
喪失感から、いつもデパートの屋上で空を見つめていた…。
消えゆく命を目の前にして自分にできることは何なのか、
彼女が望むものは一体何なのか。
現実から過去へとふりかえる優しさと感動に溢れる恋愛小説。


今まで元気に過ごしていた人の命が、ほんの僅かだと知ったときの脱力感、虚無感、
想像するだけでも涙が溢れてきます。
お互いの共有できる時間に何ができるか、
消えていく人の言葉から何を感じ取り、何を省けばいいのか、
考えれば考えるだけ色んなことを悩んでしまう作品だと思いました。
ストーリーは全部が好きなのだけれども、特に心に残るのは、
いつも相手の気持ちを思う2人の会話です。
傷つけることなく相手を尊重し愛を育む素晴らしい会話です。
『世界の中心で愛をさけぶ』の拡大版のような気もしますが、
優しい心、優しい言葉はいつ読んでも心に沁みてくるものですね。
相手に冷たく接してしまった時に、改めて読んでみたい作品です。