名探偵の呪縛 … 東野圭吾著■(講談社文庫)
小説家の「僕」が図書館へ行き本を探している間に迷子になってしまう。
周りを見ても誰もいない― 。
ところがそこへ「僕」を待っていたという「ミドリ」という女性が現れる。
何故か「僕」のことを探偵の「天下一」さんと呼ぶ―「僕」はそんな名前ではない。
しかし、そう言われて自分自身を見てみると、今までの容姿とは違って
次第に「天下一」という人物のような気がしてき、
気がつけば既に別の世界へと足を踏み入れてしまっていた。
その別の世界で次々と起こるトリック殺人事件。
だが、最初から何かがおかしい。
もともと“本格推理”というものがこの街には存在していないのだ。
街にかけられた呪いとは一体何か―。
「僕」はもとの世界に戻ることができるのか―。


トリックのミステリで東野さんにしては、
今までに読んだことがない風変わりな作品でした。
科学の話が最初に出てきていたので、
てっきりそういう話だと思っていたのですが、
「僕」が作っている小説の中の話で、ちょこっと出てくるだけ― なんだあ、です。
前半に図書館内をぶらぶら歩いているシーンが出てくるのですが、
そこで考えていること(どんなに心血を注いだ作品であっても、
書評家が特に取り上げでもしてくれないかぎり、瞬く間に大量消費の波に
飲み込まれてしまう。―本文から)から、
東野さんたち(文筆家さん)の本音が見えたような気がしました。
さて、本筋の話に関してですが、それ程言うことも無く、
思ったよりも珍しい話ではないような。
終わりは幻想的で良かったのですが…う〜ん。


“It”(それ)と呼ばれた子 幼年期 … デイヴ・ペルザー著■(ソニーマガジンズ)
これは実際起きた幼児虐待の話で、著者がその本人です。
優しかった母親が、急に変わり始め1人の子供だけに虐待を繰り返す。
食べるものを与えられず、腕をコンロで焼かれ、ナイフで腹を刺され…。
母親から、ありとあらゆる虐待を受け、
それでも母親に負けず、頑張って立ちあがろうとするデイビット―。


酷いです、こんな話見た事も聞いたこともありませんでした。
母親が1人の子供に虐待していることを父親は知っているのに、
父親はどうして庇ってやれないのか、守ってやれないのかが不思議でなりません。
どうして母親が虐待を繰り返すようになったのか、まだ明かされてはいませんが、
明かされても恐ろしいことが許されるはずがありません。
読んでいて、ただ1つの救いはデイビットが強く生きてくれていることです。
祈りを持って2冊目を読みたいと思います。


家守 … 歌野晶午著■(カッパノベルス)
「家」をモチーフにした5編の短編集です。
表題作の『家守』― 。
昔ながらの、変わり映えもしない1戸建ての家の中で、
妻の苑田笙子が寝ている時、ナイトキャップのずれによって窒息して死んでいた。
一見、事故のように見えたのだが、
刑事たちの調べによって殺人の線が浮上してきた―。


今回始めて歌野さんの小説を読みました。
トリックのミステリだとは知らなかったのですが(私はこの類が苦手です)、
話の持って行き方が巧くて読み易く、ユーモアもたっぷりだったので、
途中で嫌になって投げ出さずに読む事ができました。
この5編の作品の中には切ない話もあるのですが、
登場人物の行動に特長があって、笑ってしまう話のほうが多かったかな。
歌野さんというと、先入観から堅苦しいイメージを作り上げていたのですが、
『人形師の家で』に出てくる人形師の行動
(自分で作った石膏の人形が人間のように見えベッドに連れて行ってしまう)が、
歌野さんのようでもあり、まぁ色々想像しちゃうわけで、
堅苦しい方…でもないみたいですね、考え直します。
気軽に読める本として推薦したいと思います。


汚名 … 多島斗志之著■(新潮社)
小さな家で独り暮らしをする叔母(藍子)は、周りの人に心を開かず、
また、特別な感情も持たずに生き寂しく亡くなってしまう。
叔母は、どうしてこのような生活を選んだのかを、
作家業をしている甥の「私」が叔母の過去を辿っていく物語。


「このミス」で20位になった作品です。
最初、装丁からは、想像できないラブストーリー&ミステリでしたが、
読了後にじっくり眺めて見ると、実にピッタリです。
時代の出来事を背景にしてあり、現実に捉え難いところもあるのですが、
話の構成がしっかりしているので、確認しながら興味深く読む事ができます。
叔母の過去が手記をもとに謎解かれ、
真実が明るみになっていくにつれて、私の心は何故か沸騰寸前。
「叔母」のことを健気と言うよりも、
感情の赴くままに生きた人と言ったほうがいいような気がします。
せっかく「私」が引っぱり起こしてくれた人生だったのに…あ〜あ!って感じです。
力作だとは思いますが、読後感が悪くて残念でした。


魔球 … 東野圭吾著■(講談社)
春の選抜高校野球大会で投手をしたエース須田武志は、
9回裏2死満塁の危機を迎え、今までに見たこともない「魔球」を投げる―  。
大会後暫くして、当時エース須田の捕手をしていた北岡が、
ある日の早朝、堤防沿いで愛犬とともに死体で発見された。
魔球と事件とは、一見繋がりが遠いように思われたのだが…。


高校生活をおくる青春ミステリものです。
たった1球の「魔球」がキーワードとなる作品で、とても切ない話です。
高校野球から夢を見、希望を求める球児が怖れるものは何なのか、
揺れる心ががよく書かれていたと思います。
この作品は、東野さんの最初のほうのものと言えますが、
殺人の描写に、まことしやかなナマナマしさがあったとは、新しい発見です。
頑なな武志の人物像が印象に残る作品で、
弱いところを隠し続ける強い人を久しぶりに見たような気がしました。


裏切りの特急サンダーバード … 西村京太郎著■(新潮社)
大阪から和倉温泉に向う北陸本線を走る
「特急サンダーバード」が謎のグループにジャックされる。
乗客の人数から計算してJR西日本に請求された身代金の額は11億円― 。
犯人グループたちは、まるでゲームを楽しむかのように警察を欺き目を晦ます。
この犯人たちにエックスデーはくるのか…。


私は北陸出身で帰省の折りに、この「サンダーバード」を利用するので
興味があり読んでみました。
主犯の「大明寺」の下準備がとても入念で素晴らしいです。
犯行グループを結成させる前に1人1人に金銭を与え準備期間を設け、
大明寺の逃走経路も完璧でした。
スピード感、大明寺の頭の良さが見ものの作品ですが、
最後のマヌケさはちょっともったいなかったかな。


聯愁殺 … 西澤保彦著■(原書房)
数年前に起こった謎の連続殺人事件で、
ただ1人の生存者、一礼比梢恵(いちろいこずえ)に依頼され、
当時の事件を扱った警察官や「恋謎会」のメンバーが推理し真相を話し合う。


登場人物の名前が半端じゃなく難しかったです。
最初のほうのページに名前にルビがふってあるのですが、なかなか憶えられなくて
読んでいる最中にも度々本をひっくり返して見ていました。
という訳で、話の半ばまでは読んでいても推理に集中できず、
脱落しそうになりましたが、
ようやく名前を憶えられたところから俄然面白くなってきました。
犯罪に詳しい人やミステリ作家が集まって、
数々の思いもよらない推理を出し合い話す。
でも実際これを考えているのは、西澤保彦さん1人なんですよね、
文句なしに敬服しちゃいます。
ミステリに対して私の一番のポイント「ホントのところはどう?動機はどうよ!」。
そのところが、推理ばかりでなかなか出てこずイライライライラ…。
このまま終って謎はいつまでも謎のままで終章? 
いえいえ真実はちゃんとありました。
真実の上にもまた付加してある話があるじゃないですか、嬉しかったですね。


全体的には登場人物も個性的で考え方も多才で最後楽しませてもらったのですが、
いかんせん名前が難しいので、4つ★の評価。勝手でごめんなさい。
これから注目していきたい作家さんになりました。


忘れ雪 … 新堂冬樹著■(角川書店)
小学6年生の深雪は数年前に両親を交通事故で亡くし、
東京の伯父夫婦と生活を共にしていた。
伯父は自営業を営んでいたが、近所の大型店の出店に事業は傾き、
生活は苦しくなり、深雪を育てることができなくなった。
そして深雪は、京都に住んでいる子煩悩な伯父の弟夫婦に引き取られる。
その東京を離れる1ヶ月前、家の近所の公園で怪我をしている一匹の子犬を拾う。
そこに偶然通りかかった獣医師の息子一希(中学生)が、
自分の親がやっているという動物病院に連れて行ってくれた。
深雪は、子犬の育て方を知らず、一希に懇切丁寧に教えてもらっていたが、
何回か犬を介して会ううちに恋心が芽生えるようになった。
しかも2人とも一緒に居る時がすごく楽しかった。
だが、深雪に残されている時間は少ない…。
ついに京都に行く前日、深雪は、
一希が獣医師になっているだろう7年後、
結婚を申し込んで欲しいとの約束を取りつけ― 別れる。


タイトルからも推測できるように恋愛小説で、
全般的に物静かで地味なストーリーです。
それゆえ読み始めた当初は、
恋愛話が延々最後まで続くんだろうなと思っていました。
ですが、犬の育て方や動物病院の苦悩など、
知識を植え付けてくれる部分があったり、
ミステリ調になったりと凝ったストーリー仕立てになっていました。
いっぽん調子の恋愛小説ではなく飽きないのですが、
ひとつ言わせてもらうなら、政治絡みやハードボイルドは行きすぎじゃないかな。
そこまでいかなくても十分に楽しめる作品なのに。
でも私は、一途に思いを募らせる、この話が好きです。


蛇を踏む … 川上弘美著■(文藝春秋)
外出の途中、ヒワ子は公園の藪の中で蛇を踏んでしまう。
その蛇はどろりと溶けて人間の姿に変わり、
ヒワ子の住む部屋の方角に歩いていった。
暫くして家に帰ると誰もいないはずの部屋には、
さっきの蛇だと思われる50歳ぐらいの女性が、
ご飯の支度をして待っていた…。 (― 蛇を踏む)


奇想天外で面白い作り話が、表題作を含め3編収録されています。
表題作は第115回芥川賞を受賞しており、以前からとても気になる作品でした。
読んでいると一瞬、
童話のようなお伽噺のような錯覚に陥り、昔懐かしい心地になります。
絶対にどう考えても変な話なんだけれど、登場人物も別段否定もせず、
そう言われればそうなのかもしれない、と
当たり前のように受け取っている様子が、クセありで面白かったです。
川上弘美さん独自の世界に巧く引き込まれたような感じで、
いつもの川上さんとは違った別の面が見られた様な気がしました。


アーモンド入りチョコレートのワルツ … 森絵都著■(講談社)
クラシック音楽にこだわる表題作を含めた3つの短編小説。
「アーモンド入りチョコレートのワルツ」は、
ピアノを教えている絹子先生と、その生徒奈緒と君絵。
絹子先生は一風変わったクセがあり、当然教え方にも個性的が現れ楽しい。
その教え方が人柄が奈緒と君絵は、とても気に入っている。
そして絹子先生の家に、ある日突然フランスから来たという
突拍子もないことをしでかすサティおじさんが仲間入りする―。


表題作になっている作品でしたが、
前半、単調なところがあり少し退屈でした。
話は面白いのですが、絹子先生の見えない面が多かったような気がします。
しかしその分、サティおじさんの滑稽さが際立ち最後まで良い味を出して、
エンディングに繋げてあったので、全般的には良かったと思います。
私の個人的な意見としては、あとの2作品(不眠症の話や別荘の話)
の方が子供の心がよく出ていて心に響いたかな。
頭の中で音楽が自然と流れて、心を明るくしてくれる未来あるストーリーでした。


東京湾景 … 吉田修一著■(新潮社)
亮介は京都でおきた「メル友連続殺人事件」がきっかけで、
メールの出会い系サイトに登録し、涼子と知り合う。
彼女がいた亮介だったが、
軽い気持ちで涼子と会っているうちに少しずつ惹かれ始めてしまう。
涼子も最初のうち、自分の本当のことをなかなか口にせず、
距離を取りながらの交際を続けるが、気になる存在へと心が揺り動かされてゆく。
東京湾を舞台に繰り広げられていくラブストーリー。


「メールの出会い系サイト」という設定に、ゴタゴタ感を想像していましたが、
とてもさらりとした爽やかな話です。
20代半ばの2人にとって仕事も恋愛もうまくこなし、
「絶対」を手に入れていこうとする努力は実に輝かしく見えました。
付き合いの中である程度の距離を保ち続けていくのは、私の中では理想であり、
この作品はまさにそれで、読みながらも2人にエールを送っていました。
誰が読んでも、爽やかさが好きになる作品だと思います。
私も東京湾に行ってみたい!


むかし僕が死んだ家 … 東野圭吾著■(双葉社)
昔懐かしい声で1本の電話が
「僕」のところにかかってきたのがすべての始まりだった。
それは高校2年から大学の4年まで付き合っていた彼女だった。
彼女、倉橋沙也加は父の形見の地図と鍵を持って、
一緒に印のついている場所を探して欲しいという。
小さい頃の記憶が無い沙也加は、
そこに自分の居場所があったのではないかと考えた―。


頭が良いな「僕」。短い時間で憶測のところもあるけれど、
1軒の家の謎をほぼ解いてしまうとはお見事です。
少年の日記を読みながら絡んでいる糸が
少しずつほどけていくにも関わらず、
一向に謎のままの沙也加と少年の関係は、良い意味でもどかしいです。
だから盲点があちらこちらに出てきても、
巧い会話にちっともオカシイと思わず・・・バッチリひっかかりました。
でも、何か何処かが物足りないな。


星々の舟 … 村山由佳著■(文藝春秋)
家族それぞれが悩みに生きている。
結婚はしているが自分の居場所を探し求める長男、禁断の恋に悩んでいく兄妹、
不倫ばかりの恋をしてしまう末娘、戦争時代のことを引きずる父―。
複雑な家族関係に家族は揺れ、戸惑いながらも巣立っていく。
愛や家族、そして幸福とは何かを考えさせる話。


この本は第129回直木賞受賞作です。
兄妹とは知らずに恋をしてしまう話―と単純に思っていましたが、
読むにつれて家族が出て来、互いに庇い合いながらも助け合っていく
不安ながらも心温まる話でした。
愛によって他人の痛みを感じ取り、
触れずにそっとしてやる家族の心を読み、考えるたびに胸が熱くなります。
そして、他人から見る「幸せ」と、
自分にとっての「幸せ」には相違があることも少なからず学びました。
サクサク読める本ではないけれど、
自分の気持ちを確認しながら読むことができる作品でした。


いくつもの週末 … 江國香織著■(世界文化社)
江國さんが結婚されて2年目の秋からもうじき3年目の秋になる、
という間に書かれたエッセイです。
夫婦で過ごす週末にどれほどエネルギーを必要としたのか、
旦那様がどういう方だったのかを綴ってあります。


何だか夫婦生活の暴露本のような気がしました。
ご主人が好きなことには変わりなく、安心するんだけれども何かが違う、
一緒の部屋に居るけれども、いつも別々なことをしたり考えたりしているという、
どこにでもありそうな話なのですが、
それにプラスαで結構危機迫るものを感じました。
しかし、夫婦でありながら夫に言えないことを江國さんらしく分かりやすい言葉で、
的確に書かれているので、少し心地が良かったりします。
読後は、ホッとするような落ち込むような複雑な気分になりました。


親指さがし … 山田悠介著■(幻冬舎)
山梨県の天界村に起きた「バラバラ殺人事件」で
どうしても見つからなかった女性の左手の親指。

その噂話が元になり半ば遊びの幽体離脱をし
小学生の仲良し5人組は「親指さがし」を始めるが、
「親指さがし」にはルールがあり、
それを守らなければ生きては帰って来られないと言う。

だが、最初に話を言い出した女の子がそのルールを破ってしまった―。


「リアル鬼ごっこ」に比べると、
この作品はホラーの割には緊張感を覚えることが少なく、
余計な話(ごめんなさい)が目に障る感じがしました。
読みやすい作品で、すらすら読めるのはいいけれど、
途中で結末が見えてしまい、読みやすさがいっそう加速して
恐さが無いうちに結末を迎えたかな、という印象があります。
結末もよくある話になってるし、私としては物足りなさを感じてしまいました。
でも、まだまだこれからだし、今後に期待をしています。


哀愁的東京 … 重松清著■(光文社)
進藤宏は絵本作家だが、あることがきっかけで
『パパといっしょに』という絵本を出したきりスランプに陥り新作を出せずじまい。
現在フリーライターを本業として活動している。
この絵本だが大人のファンも多く、今度進藤についた担当編集者シマちゃんもその1人。
進藤は描けない苦悩の上で現実と関わり合いながら、
シマちゃんから力を添えてもらうが、それでもうまく行かない。
自分の前を通り過ぎて行く日々そして人々に思いを馳せた行く末には―。


今まで読んだ重松さんの中では珍しい連作短編集でした。
今回「絵本」がモチーフとなっていたのですが、
そういった物を滅多に読んだことがない私でも、ひとつの「絵本」を頭の中に思い描き、
読んでいくことができました。
自分のスランプに戸惑っている進藤を主観的に書き、
気持ちの病んでいる人は思いやり持っていたわっていく書き方が良かったです。


重松さん作品の多くは子供の気持ちを考えさせられるのに対し、
今回は職を持った大人の気持ちを考えさせられるものになっていました。
趣味と仕事の違いは、
前者は「好き」か「嫌い」、後者は「できる」か「できない」か…なるほどね。
鋭さの中にも温かみのある言葉がとても印象に残り、
今、こう書きながらもまた読みたくなってきました(笑)


解夏 … さだまさし著■(幻冬舎文庫)
隆之は病気のために、数ヶ月後には視力を失ってしまう。
そのため、東京でやっていた教職を退いて故郷の長崎へと帰る。
当時、隆之には恋人の陽子が居たが、彼女の幸せを思い別れを告げてしまう。
しかし、陽子は隆之を追いかけ長崎に行く。
そしてある日、隆之と2人で老人から「解夏」の話をきかせてもらう。
刻々と迫るXデー、発作に耐える日々。
今まで未知の世界であった暗闇の生活に恐怖を怯えながらも、
隆之は最後自分の目に見せてやりたいものは何か
行を終える解夏とは一体どんなものなのかを考える―。


表題作を含め4つの短編集ですが、映画にもなっている『解夏』の話に触れます。
この作品は短編の割りには奥の深い話。
そして隆之の病気が終息するところは、失明なのです。
決して長い期間の話ではなく、明日来るかもしれない日を待つわけなのですが、
これを知り合った老人を通して自分自信修行として捉えるんです。
自分に与えられた試練だと・・・。
仏教の教えに基づいている話ですが、
故郷や温かい周りの人たちのことなども、しっかりと絡み合わせて、
書いてある言葉以上に心の奥底に広がるものがあります。
読む前は、専業の作家さんではないので、
つまらないんじゃないかと思ったのですが、読みやすく分かりやすく書いてあるので、
すーっと話の中に入っていくことができ、退屈さは全くありませんでした。


後の作品3編も、「人」がテーマの切なさあり温かみありのいい作品でした。
が、私には偏見があるせいか、「女性」というひとつのキーワードに、
何かひっかかるものがあって好きになれませんでした。すみません。


神様のボート … 江國香織著■(新潮文庫)
とても素晴らしい恋愛をした「ママ」、その恋愛の末にできた「あたし」。
必ず戻ると言って居なくなった、あたしのパパの「あのひと」。
ママは「あのひと」がいない場所には馴染む訳にはいかないと、
あたしを連れて引越しを繰り返す― 。
あたしは訳が分からずママに訊いても、
神様のボートにのってしまったから…それだけ!?
そして「あのひと」が見つかるまでボートは動き続ける。


親子2人の静かなストーリーです。
「あのひと」と「ママ」はこれという離れ離れの話は無く、朧気に語られて行き、
読者サイドに雰囲気を掴ませ読ませていくところが、江國さんの技のように思いました。
それと、この作品に度々出てくる『好き』という言葉があるのですが
使い方がすっきりと巧い!
何のどこが好き、○○している姿が好き、と書かれると、
好きじゃなくても、見てみたいな、とってもステキなんだろうな、
と暗示にかかってしまいます。
この作品は人々の微妙に移ろい変わっていく心がよく書けています、
そして私の恋愛感の憧れです。
静かな青空の下で、ゆっくりじっくり読みたい作品です。
あー、江國さんをもっともっと読みたいなぁ。


死にぞこないの青 … 山田悠介著■(幻冬舎文庫)
ふだんあまり自分を表に出さないマサオは飼育係になりたいがために、
皆から慕われ人気物だった羽田先生に嘘を言って嫌われてしまう。
羽田先生は、マサオが悪くなくても彼の名前を出して叱り、
また、何かにこじつけても叱りつけるようになった。
そうする先生を見ていた生徒たちも、
次第に何でもマサオが悪いものだと思い込み、いじめるようになっていった。
そして、納得いかないマサオは鬱積していくものを胸にかかえていると、
ある日、気味の悪い男の子がマサオの前に現れた―。


もう最初の方から切ないです。マサオが優しいというか気弱というか、
眺めていられなかったですね。
作り話をするマサオがとても痛々しく、うまく書かれていて、
乙一くんも主人公のような心境になったことがあるんじゃないかと
勘ぐってしまいました。
途中、心配していたストーリー展開でしたが結果オーライで安心しました。
最後がいつになくとっても爽やかで良かったです。


リアル鬼ごっこ … 山田悠介著■(文芸社)
西暦3000年、あらゆる技術が発達し王国の人口は約1億人。
その王国の「佐藤さん」人口は増えに増え5万人になっていた。
王様は自分と同じ「佐藤」姓がこの世に沢山いることが気にくわないと、
全国の「佐藤さん」の削減を考え、
1週間に渡って「リアル鬼ごっこ」を計画し実施した―。


随分昔に読んだことのある、
童話に出てくる我侭な王様の話(何だっけ…)や「バトルロワイアル」の
プロット&シチュエーションが似ていて、期待していた割には少し残念でした。
ですがそれに付随してくる話は、意外にもしんみりとした切なさがあり、
全体から見ると、私好みのストーリー展開で面白かったです。
話が前後しますが後1つ、どう見ても(読んでも)自然ではない表現の仕方が
ひっかかりを覚えてしまいました。
…でもこの作品がデビュー作だもんね、まぁいっか。


リカ … 五十嵐貴久著■(幻冬舎文庫)
第2回ホラーサスペンス大賞受賞作です。
印刷会社勤務の本間が大学時後輩だった坂井に
インターネットサイトの出会い系を勧められる。
疑心を持ちながらも出会いの無限さに惹きつけられ、リカと知り合うことになる。
最初のメール交換では可愛い女性だと思っていたリカだったが、
後々、一番関わってはいけない恐ろしい人物だと気付く―。


主人公の本間ですが、出会い系に夢中になり
個人的にはちょっと敬遠してしまうような男性。
そうは思っても、展開がとても気になる話で読み止りませんでした。
極端にしつこく、勘違いなリカが恐ろしいのとは反対に
面白くなってしまうのは何故でしょう。


文庫が完全版らしいのですが、単行本には無いエピローグが書き足され
まだ先があるかと思わせる書き方が気になりました。
このラスト、綾辻さんの「殺人鬼U」と似ているような気がするなぁ。


夏と花火と私の死体 … 乙一著■(集英社文庫)
「ジャンプ小説・ノンフィクション大賞」第6回大賞受賞作品です。
乙一くんは17歳の時、この作品でデビューし、
執筆した当時は16歳だったと言うから驚きです。


9歳の夏、五月(さつき)は、
心にあったある一言を言ったために殺されてしまう ― 犯人はとても無邪気だった。
「わたし」(五月)の死体を、夏の熱い数日間に渡って、
必死に隠そうとする兄妹の奮闘ぶりを書いている。


考えにくい話ではあるんですけど、はまりました、夢中になりました。
もう、文章が吸い付いて来るんですよ。
幼い兄妹の心の描写が巧く、あまりの必死さに笑わせられたり感心させられたり、
16歳でよくここまで書けるものだと感動さえしてしまいます。
殺された五月は「わたし」という視線で書き通し、
今までに読んだことのない作風でもあり、とても新鮮に感じました。
乙一くんを最初に読むなら、この作品をお勧めします!


光と影の誘惑 … 貫井徳郎著■(集英社文庫)
タイトル作を含め中編4編のが収録されています。
始めの作品は子供が誘拐される話「長く孤独な誘拐」なのですが、
この作品はTVドラマになるはず(なったのかな)です。
森脇の子供が誘拐され、犯人からの要求は「ある子供を指示通り誘拐しろ!」
という、よくある金銭目的の誘拐とは違う一捻りあるもの。
自分の子供を助けたいが故に実行するのですが色々あるんですねぇ、これが。


そして貫井さんには珍しくコミカルな「二十四羽の目撃者」は外国を舞台とした物語。
警察が探偵に密室殺人の犯人を推測させてみるという、一風変わったものです。
謎解きはなるほど面白いと思いましたが、全体的に軽さが物足りなかったです。


あとの作品は・・・途中で結末が読めてしまい期待した割には、
やられたかなと思いました。
私は表面上でしか読んでいなかったのですが、
解説を読むと他の作家さんの作品をを参考にした話がある、奥の深い話だったんですね。
貫井ファンとしては、再読して新たに味わいたい作品です。


落花流水 … 山本文緒著■(集英社文庫)
手毬は小さな頃から甘ったれの我侭。
その性格は、複雑な家庭環境が原因で出来あがったものだった。
手毬の母親、律子はしょっちゅう男を換えてしまい、
親子代々安定した生活を営むことができない。
やがて手毬も結婚し子供を持つ身となるが、
人生の歯車はなかなか噛み合わず、幸せが思うように訪れてこない―。
愛に翻弄され、長く短い人生をさまよい歩く女の一生。


読んでいけば人間関係が分かるんだけど、かなり家庭環境が複雑です。
母親だと思っていたのが実は祖母だったり、父親だったのが彼氏もどきになったり―。
こういう生活が実際あると大変だな。
1人の視点ではなく、章ごとに母親の視点だったり姉弟の視点だったりと、
変えて書かれているので、隠れていたものが見えてくる面白さがありました。
最後は2017年までの近未来小説になっているのですが、
世相が反映され、救いようのない現実が見えるような気がして、
少しばかり落ち込んでしまいました。
読後も晴れ晴れとしないのが文緒流でしたっけ?― ファンなのに勉強不足です。


熱帯魚 … 吉田修一著■(文春文庫)
表題作をはじめ「グリンピース」「突風」の3つの短編集です。
「熱帯魚」は―。
大工の大輔と真美の子供小麦は同棲していた。
なぜかそこには、
毎日熱帯魚ばかり見ている、引きこもり気味の義理の兄弟光男が居候している。
この共同生活の中、それぞれはバラバラのことを考え生活をしていた。
それでも、大輔の頭の中には絶えず光男のことがあり、
いつかは光男の言っている夢を叶えてやりたいと思っていた―。


この作品には、痛々しいけれどどこか楽しい雰囲気が漂っています。
交わされる会話はしょうがなく投げやりで
こんな生活はしたくないな、と思いながらも
数々のユーモアがあり、この人たちと知り合いになってみたい気分にさせられます。
今まで、文学系の話は苦手意識があったのですが、
微妙な心情まで丁寧に書いてあり感情移入がしやすく、
こういうのも悪くないと思えました。
特に、結びの部分を文中の話と対比させてあるところが良かったな。


宇宙のみなしご … 森絵都著■(講談社)
陽子とリンは中学生の仲良し姉弟。
2人は退屈しないように楽しい遊びを見つけていた。
その遊びは2人以外にはいつも内緒のはずだった―屋根のぼりの前までは。
だが、リンが口外したことによって、仲間が加わってしまった―。


いつもの絵都さんが書く主人公としては、心なしか気性が強めです。
その主人公陽子ですが少しばかり毒舌気味。それがまたキリリと良かったです。
ただ毒舌というだけでなく陽子自身、気付いていない怒り方が相手の心に喚起させ、
やる気へと繋げて行ってくれます。
読み進むにつれて、どんどん身に沁みる言葉や話が出てきて、
子供のみならず大人の心にまで響いてくる物語でした。
しかしながら、今まで読んできた作品の中では少し物足りなさを感じてしまいました。
…高望みしすぎでごめんなさい。。


クライマーズ・ハイ … 横山秀夫著■(文藝春秋)
1985年、御巣鷹村で日航機墜落事故が起きた。
地方新聞社「北関」に勤める悠木はその事故を扱う責任者を任せられる。
― 新聞社内外の熱き長い闘いの幕が切って落された。
おりしも悠木は事故当日、
職場の同僚安西と待ち合わせ山に登る約束をしていた。が、その安西は…。


「このミス」の7位に選ばれた作品です。
いつもの警察ネタとは違い今回は新聞社勤務の経験を活かした話で、
馴染み深くとても読みやすかったです。
事故や事件が起きると、もの凄い勢いで嗅ぎつけ報道する地元新聞社ですが、
分刻みのネタ絞りや、熱血漢たちの闘いが力強いタッチで書かれていて、
途中で止めることができませんでした。
社内の人間関係、命の大切さ、家族関係、どれをとっても細かく書かれていました。
話は反れますが、この悠木を旦那さんに持った奥様は、
次は何をやらかしてくれるのか、いつ会社を辞めるのか…等、
さぞかし気苦労が耐えないのでは―。
とは言うもの、久々に夢中になって読了することができました。
ランキングの7位…すごく頷けます。


ゴールド・フィッシュ … 森絵都著■(講談社)
リズム」の続編です。
リズムでは真ちゃん(いとこ)が夢を求めて新宿に行った。
今、さゆきは中学3年の受験生になっている。
希望を持っていた真ちゃんを目標にして、新宿に行ってからも
気にかけていたのですが、いつの間にか連絡がつかなくなってしまった…。
周りは進路を決め始めているが、
さゆきは揺れ動く心もあって先が決まらず焦るばかり―。


これを読むと中・高校生時代が懐かしいです。
夢は希望であるけれど、現実は厳しく思い通りには動かないんですよね。
それでも夢は捨てずに一歩ずつ、遠回りのような気がするけれども、
地道に頑張っていく姿が書かれています。
読んでいくうちに消えかけていた私の夢が、また新たになった様な気がしました。


すっかり絵都さんファンになってしまったのですが、
感覚的な「間」というか「行間」が何とも言えずイイんですよ。
キャラクターも個性があって常に優しいし、まだまだ読んでみたいな。


殺人鬼U 逆襲篇 … 綾辻行人著■(新潮文庫)
殺人鬼」の続編です。
何と殺人鬼は生きていたんですね・・・。
相変わらず、殺人鬼に殺される殺される、目を付けられれば命なし。
前回は双葉山で殺人事件が起きていたのですが、
今回は街まで降りてきて病院を襲撃。
最後には思いもよらない結末が―。


ふぅ〜!ようやく終りました、このUの話―。
これもストーリー性はやはり薄いです。
そして「大量の血でぐずぐずになっている」、「喉に巻きついたぬめぬめしたもの」
(本文一部抜粋)という生々しい表現はリアルすぎ。
直ぐにでも想像できちゃうじゃないですか…。
この殺しの話にかまけて、サイドで僅かにでも命が助かった人(いたんですよ)は、
どうなっちゃったんでしょうねぇ、私はそっちの方が気になるのですが。

この話、まだ続くみたいです。発刊は未定ということで。


天帝妖狐… 乙一著■(集英社文庫)
「A MASKED BAL」と表題作の2編の短編集です。
表題作を取り上げれば…
醜い顔に包帯を巻いた青年が、ある町で動けなくなり倒れていた夜木。
それを可哀想に思い助け、自宅に住まわせる杏子。
夜木はそういう杏子にも決して素顔を見せない。
しかし、そんな夜木を凶暴な事件が襲い、素顔を暴かれる時が来るが・・・。


よくある「こっくりさん」の話だったのですが、
ホラーだけでは終らず他設定もなかなか面白いと思いました。
文面で綴られ語られていく夜木の物語はどこか物悲しく、
最後もいつもの様にせつなさが残り、短編なのに読み応えがありました。
乙一くんのこの作品、何だかいいぞ!


世界の中心で、愛をさけぶ… 片山恭一著■(小学館)
世間の話題になり映画にもなる作品です。
十数年前、朔太郎は中学で
「アキ」と知り合いつき合うようになり、同じ高校にも通っていた。
2人共に過ごす時間が楽しく永遠に続くと感じられたが、
突然アキは不治の病に侵される―。


愛する人を亡くすというのは本当に辛いもの。
2人共通の時を刻んだ思い出が回想されるたび涙を誘います。
若い日の純な恋愛はとても透明で、周りのことが目に入らず、
相手を一心に思う気持ちはきらきらと輝いて見えました。
今さらながら、私もこんな恋愛ができたらなぁ、なんて思いました。


オーデュボンの祈り… 伊坂幸太郎著■(新潮文庫)
新潮ミステリー倶楽部賞受賞作品です。
コンビニ強盗を失敗し逃走していた「伊藤」が運良く警察の手から逃れ
気付いた時には『荻島』という知らない土地に居た。
その島は外部から閉ざされており、行き来できるのは轟という男1人だけ。
しかも島に住む人間といえば、一風変わった人ばかり。
嘘しか言わない元画家や誰もが認める殺人男、
極めつけは人間の言葉を喋る未来を予測するカカシ…。
ある日、そのカカシが何者かに殺される。
何故自分で阻止することができなかったのか―。


伊坂さんの作品を読むのは今回が始めて。
非現実的な設定の中に繰り広げられている世界に斬新さを感じました。
常識的に考えると納得できない話、失礼な程の会話があるのですが、
それもまた話のスパイスになっていて、なかなか好いんじゃないと読ませてくれます。
途中から2つの疑問が出てくるのですが、
この疑問が読者の気持ちを最後まで惹き付けて離さないんですよね―。
読了感が良く何故か得した気分になりました。


なんとなくな日々… 川上弘美著■(岩波書店)
この作品はエッセイです。
川上さんの気取らない、どうってことのない日々とは
どんなものなのか覗いてみたくて読んでみました。
なんとなくという割には、よく物事を観察していらっしゃいます。
そして表現豊かで、物事の例えが巧い!
乾燥機の話をの例にとれば、使ってて動きがにぶくなった時、
「ためしに動いてみたんですが・・・・・・。」(本文抜粋)という表現、
そして蛍光灯の寿命がきた時(もうそろそろダメって時)には、
「あの、そろそろ、行きますね」という比喩。
言葉にして言われてみれば、機械が壊れる時はそんな感じなんですよね。
一般の人とあまり変わらない川上さんの生活なのに、
それを表現されると活き活きと輝いて見えて、ステキです。


まひるの月を追いかけて… 恩田陸著■(文藝春秋)
失踪した「渡部研吾」を探し出すため、
研吾の友人(女性)と研吾の妹「静」が奈良に旅に出る。
誘ったのは友人であったが、旅は用意周到にルートが決められており、
どこかで研吾と会えると言う珍妙さ。
一体何が目的の旅なのか、失踪の原因は何だったのか ― 。


旅をしながらのミステリ仕立てというところが、『黒と茶の幻想』に似ていると思いました。
今回の場所設定は奈良で、荘厳な佇まいを思い出させてくれるというか、
一瞬、ミステリだということを忘れさせ、周りの景色に意識が移ってしまいます。
読んでいるうちに、人探しなんてどうでもよくなってきて、
このまま旅行記になってもかまわないと思う程。
そのせいか、話自体が平坦で時に退屈になってくることもあったのですが、
まぁ、それはそれとして。。
ミステリとしては物足りないけれども、
こういう作品も恩田さんの得意とするところなのかなと思いました。