天国の本屋 … 松久淳+田中渉 (新潮社文庫)■
大学に通ってはいるけれど、なかなか就職が見つからない「さとし」。何をするにもまったくやる気がせず、偶然入ったコンビニでちょっと変わった男に声をかけられ、腕を掴まれた瞬間にふと意識を無くしてしまう。そして気付いてみれば見知らぬ土地―男に訊けばここは天国だという。男の仕事は本屋の店長。自分はバカンスを楽しむために、さとしをアルバイトで店長代理に仕立て遊びにいってしまう。訳の分からないまま本屋で働き、やる気を見出していくさとし。その本屋には緑目をした、ちょっと複雑な心を持った、さとしと同い年ぐらいの女性が働いていた―。


今まで本棚に眠らせて置いたのがもったいないと思いました。
映画にもなった話だとは知っていたけれど、夢があって懐かしさがあって、
希望があって、恋愛があって…。
図書館のように読み聞かせてくれる本屋さんがあるのって素敵です。
読み聞かせてくれる本の中に「泣いた赤おに」があるのですが、
昔、読んだ記憶があったものの、この話を改めて考えてみると、
考えが浅かった赤おにの後悔と、青おにの赤おにへの思いやりや友情の深さが、
とてもよく表現されていた作品だったと思います。
この作品は、それをモチーフにしてあるので、知らず知らずに涙がポロリ。
自分のことばかり考えていては巧くいかない、
周りのことを見ながら前に進もう!
そして共に力を合わせて喜びを勝ち取ろう…という感じの作品。
…ん?ちょっと違うような。ま、いいか。心温まる作品です。
この2作品目も絶対に読みたいです。


呪怨 2 … 大石圭著 (角川ホラー文庫)■
「呪われた家」に関わりを持った者は、行方不明になるか悲惨な死を迎えてしまう。女優の原瀬京子は、番組のためその家のことを話題にしたテレビに出演する。だがその夜、婚約者の運転する車の横に乗って交通事故に遭ってしまう。婚約者は意識不明の重体、そして京子も流産をしてしまう。しかし―。


前作より盛り上がってました。
いっぽん調子じゃなくて、色んな殺され方をしたからね。
この本だけでも十分話が分かります。
前作を読んでいなくても読んでいくうちに、
伽椰子が出てきて回想シーンでちゃんと説明してくれるんです。
騒々しさもまた大変で、自分たちだけで盛り上がっていないで、
私も仲間に入れてよ、というみたいな先走り的な雰囲気もあります。
これでかなり頑張って怖さを強調させていたみたいですが。


この本、最後の30ページくらい方が袋とじになっていて、
切らないと最後まで読めなくなっています。
はい!こんなのって気になりますよね。悲劇が待っている証拠です。
でも、結末がいまいち不透明。
結局何やねん、まだ続くのかな、という感じを持たせて終わってしまいました。
ホラーってこういうもんだったかしらと、少し物足りなさが残りました。


別れの後の静かな午後 … 大崎善生著 (中央公論新社)■
亜希子は僕にとって東京に出てきて初めてできた彼女で、自分にとっても初めての彼女だった。だが、付き合いはじめて5年た経ち、彼女は結婚を望み僕はしががらなかったのが原因で別れが来てしまった。そしてその時を狙ったかのような不運も重なり、僕は転勤でドイツへ行くことになり、そして亜希子は父親が倒れてしまい実家の広島へと、はっきりとした別れの言葉もないまま離れ離れになってしまった。そのはっきりとしないことが心に残り幾度となくドイツから手紙を出したが、2度と返事が来るようなことはなかった―。【別れの後の静かな午後】


しんみりと後からじわっと胸に広がってくる6作の短編集。
またまたこの静かな時間の流れに、はまってしまいました。
前にも書いたかもしれませんが、
彼氏と彼女が置かれている環境や状況などの比喩が凄く分かりやすくて、
読み手側の記憶と合致させることが巧く、
直ぐに、納得できる書き方になっています。
例えば、男女が別れる状況に陥っている時には、
「僕らは緩やかなスピードではあったが、
気がつけばいつのまにか交差点の真ん中で立ち往生していたのである」
―(【別れの後の静かな午後】から)というふうに言い表されていて、
目を瞑れば、この状況が頭の中に浮かんできそうです。
相手のことを思う優しさや経験が沢山詰まった恋愛小説でした。
欲を言うなら、短編よりもじっくりと浸透していく長編小説が私は好みだなあ。


インストール … 綿矢りさ著 (河出書房新社)■
平凡な高校生活から脱出しようとする「私」。受験戦争から脱落し、登校拒否児になる。自分の汚い部屋にも嫌気がさし、粗大ゴミを出す。その中には祖父とのメール交換に使おうと買ってもらった壊れたパソコンがあった。ゴミ置き場で同じマンションに住むという小学生の「かずよし」と出会い、パソコンを譲る。かずよしはパソコンをインストールし直し、いとも簡単に直してしまい、今ではメール交換もしているという。そのつてで風俗チャットの仕事を「私」とやるが、それはそれは色々なことが起きてしまい―。


若さ溢れる感覚がとても新鮮で面白かったです。
平凡な高校生活に疑問を持ち友人の言葉も手伝って、
親には内緒で不登校になる生活をおくります。
年下のかずよしから教えられ、自分の知らない世界から入ってくる情報、
自分本位だった考えが少しずつ形を変えて見えて来、
やがて再生への道を切り拓いていきます。
綿矢さんの作品を読むのは今回が初めてだったのですが、
新しい世界へと飛び込んでいく勇気、そしてチャレンジするパワーが
とてもまぶしい作品だと思いました。
「風俗チャット」という話には若干ビックリしたけれど、
女の子っぽい爽やかな印象を持ちました。


四畳半神話大系 … 森見登美彦著 (太田出版)■
大学3回生の「私」は大学生活を振り返っても実益のあることなど何もしていない。京都の古い4畳半のアパートに住み、人の不幸で3倍の飯が食えるという私のたった1人の友人小津や、その師匠らに邪魔され、可笑しくややこしい話に巻き込まれながらも充実(!?)したキャンパスライフを送っていく―。


この感情のこもらない森見さん独特の文体には、
毎度のことながらはまってしまいました。
大学に入り、4つの選択の仕方でそれぞれの短編になっているのですが、
どれも始まりは一緒、登場人物もほぼ一緒、キーワードもアホらしさも一緒で、
殆ど全てが同じ構成になっています。
普通なら、この作りに「またきたか、次はこうくるな」と
話が繰り返されるうちにだんだんくどくなって嫌気がしてくるのですが、
不思議とこの作品は
「またきてくれましたか待ってましたよ、次はこうなるのでしょう分かってますよ」
と読み手に期待させてくれます。
別々の設定なのに展開が同じになっていて、つじつまもちゃんと合ってくるとは、
さすがだなと思いました。
それに。出てくるアイテムとして
「もちぐま」「カステラ」「亀の子束子」と…あるのですが、
それぞれの思い入れみたいな、おかしさや哀愁、そして懐かしさが
それぞれの持ち味を生かしきっていて無駄なものがありません。
難しそうな言い回しに好き嫌いはあるかもしれませんが、
読み終わった後は、ちょっと頭がかしこくなった錯覚にとらわれます。
お笑い感満載で調子よい話が気持ちよく、脳髄に響いてきました。


バードケージ … 清水義範著 (NHK出版)■
浪人生の遥祐は、自殺志願の男性が電車のホームに転落したところを無事助けた。男性はお金の亡者であったが、そのお金を利用して大事な愛娘を失ってしまってからというもの、すっかり生甲斐を無くしてしまっていた。その男性は自分の命を投げ打って助けてくれたことに感謝し、財産の一部の1億円を出し遥祐に、3ヶ月という期限付きで自分(遥祐)の喜びのためにこのお金を使ってみてほしい、というゲームを提案する―。


これは時間を持て余し、自分のことしか考えていない浪人生が、
1億円を手にし、そこからお金の使い方や物の価値観などを見直し、
自分の将来を考えていく、成長小説です。
二十歳前の遥祐は、とっても真面目で考えることが可愛すぎ。
1億円でガチャガチャをやるとか安売りの店に行って物を買うとか
地味なお金の使い方をして後で悔やむのです。
―こんな子ばかりが居れば、世の中は平和なんだろうなあ。
そういう彼も、お金の使い方が分かるようになって、
精神的に大人になり自分のこと以外にも目を向けられるようになっていきます。
あーあ、教科書のような流れになっちゃって残念。
新基礎英語に連載されていたこともあって、害もなければそれほどの面白味もなく、
営業が入っているな、と思うところもしばしばでした。
しかし、自分が1億円を突然手にしたらどうなるだろうという希望というか夢、
宝くじ的な妄想は広がったような気がします。
もっと、あっという展開とか刺激が欲しかったな。


もしも私が、そこにいるならば … 片山恭一著 (小学館)■
私とママは海の魅力にとりつかれ、一緒にスキューバーダイビングをしていたある日、途中にママは溺れてしまった。ママは病院に運ばれたが植物状態で意識が戻らない。そんなところに、何の連絡もなく突然にそして強引に面会を要求する見知らぬ男。その男は、ベッドの傍らに添いママの名前を呼んだ。そしてママの顔を見ると、薄く開かれた目に涙が光り頬に伝った―。この男とママとの間には一体何があったのか…。


静かに始まり静かに終わってしまった印象でした。
ありそうな話ですが、そこをうまく隠しながら
後々まで引ぱっていっているんだけど、ちょっとくどいな。
「私」が男と会う経緯も、男にとっては迷惑のような気がするんだけど、
男がママに強引な面会をしに来たことを考えればフェアになるかな。
それと。忘れられた存在のパパがママを庇って言う言葉は、
とても優しくてとても痛々しくって可哀想。助けてあげて。
読み終わっても、2人の関係はどうでもよかったかなという感じでした。
でもこのストーリー、想いでが生きた美しい作品と言えるのでしょう。


邪魔 … 奥田英朗著 (講談社)■
悪い仲間たちとつるんで大学を目指している祐輔、怪しい身内の行動を尾行をさせられている警察に勤める九野、夫の犯罪に人生を狂わされた主婦。それぞれ自分の平穏な生活を維持するために、自分に無理をしてもやろうとする――それが転がりつづけ災いをもたらす。幸せはいつになったら来るのだろう、落ち着ける日はいったい…。


身近に起きそうな事件、悲劇的な話に怖さがあります。
なにごとも一線を超えるのは難しいけれど、いったん超えてしまうと、
人間はあとさきかまわず、どこまでも大胆になって行動し、
周りが見えなくなってしまうものなのかもしれません。
状況悪になると、転がりだすとどんどん悪いほうに転がっていくんですよね…。
その状況の変化に応じた主人公の心境がかなりリアルで、
平凡に暮らしていた主婦の生活が一変してしまう心境は、
奥田さん、凄いところを突いているなと感心しました。
他にも、タイトルの「邪魔」。読んでいるときにその言葉を意識すると、
かなり面白くて、こいつだよこいつ!とか、これだよ、邪魔って!
という別の見方も楽しめました。
長編だけれど、話に吸い込まれていく感じであっという間に読めて、グー。


呪怨 … 大石圭著 (角川ホラー文庫)■
子供のころから誰からも必要とされず、また誰も必要とはせずに生きてきた伽椰子。しかし、大学生の時に小林俊介という男子を好きになってしまってから、そのバランスは崩れてしまった。小林の行動を逐一チェックしノートに記し、ストーカー行為を繰り返す伽椰子だったが、その恋も成就せず終わってしまう。そして自分もまた後に剛雄と結婚し、その子供に昔の恋人の1文字を取ってつけ俊雄と名付けた。あることからその話を知った剛雄は伽椰子を殺してしまう―。


この話は怖いです。そりゃそうだ、ホラーだもの。
まったくそうなのですが、呪う、呪われるという前に、
人から必要とされずに生きてきた伽椰子が
恋を超越したストーカー行為に及んでしまうことに怖くなってしまいました。
そしてまた、その伽椰子を好んだ夫の剛雄というのも、
性格にとっても問題がある人なので、二重に怖いのです。
そんな異常な2人が巻き起こした「念」のある話ですから
一般人の倍の恐ろしさを持つこのホラーになったのでしょう。
しかしこの話、怖いには怖いけど、
同じことを繰り返して先が読めてしまって途中で覚めてしまうんですよねえ…。
もうちょっとどんでん返しとか、あったほうが楽しめたかなと思います。


Separation … 市川拓司著 (アルファポリス)■
ぼくと裕子が出会ったきっかけは、高校を入学した時に出席番号が近かったせいで席が前後になったこと。ぼくは陸上部に在籍し、裕子は体操部のエースとして頑張っていた。大学もそれぞれの希望にあったところに進み、別の道を辿っていた。そんな何年も経ったある日、公園でジョギングをしていたぼくに犬を連れた裕子が声をかけた―懐かしい思い、そしてどうもぼくらは15歳の時からお互いに惹かれ合っていたらしい。―ぼくらはやがて結婚をし生活を始めたが、暫くして裕子の体が少しずつ昔に若返りしていくという異変がおきる…。


これはインターネットから生まれた、たったひとりのために書かれた小説です。
なので凝縮された恋愛小説、誰も介入していない世界が広がっている感じ。
今まで恋愛については、女性のほうが
優しい感じに書き著されていた小説が多かったと思うのですが、
ここにでてくる「ぼく」は根っから優しくって心地良いな。
裕子の病気を理解し、優しく包みあげ、
病気の進行状態で彼女を自分の子供のように可愛がります。
運命的な出会い、永遠の愛、若さはどんなことでもまっすぐに捉えることができて、
偽ることなんて何もなかったんだと、自分の過去に重ね合わせて読みました。
少し妙な話だなと思うけれども、恋愛というところに純粋に目を向けて読めば、
心情が余すところなく巧く書かれていたと思います。


ゲームの名は誘拐 … 東野圭吾著 (光文社)■
広告代理店のやり手の佐久間が、取引先の副社長に、あと一歩で契約というところで話を覆され、今までに無い屈辱を与えられる。その副社長はビジネスをゲームのようにとらえ扱っているところがある。それに対抗した佐久間は、酒を飲んだ夜、副社長宅にひとこと言うべく向かうが、家の中から娘が塀を乗り越え出てくるのを目撃。その後を追い、娘と虚偽の誘拐事件を起こそうとひとつのゲームを企む―。


思ってもいなかったスピード感がありました。
エリートビジネスマンが大企業の副社長にゲームを挑む、
キレのいい話で抜け目がない計画にうっとり。
色々と伏線から結末が見えてくるのですが、
ぼーっとして知らないまま読ませて欲しいという私の思いもあって、
最後まで心地よくも騙されていきました。
計画をする周到な準備、念には念を入れるという慎重さなど、
教訓になることが多々あり実践できるところもあります。
最後のほうは切ないけれども、最後の一文には彩りがあって、
あーやられた、そうだったよねえ…と微笑みが残りました。


ゆっくりさよならをとなえる … 川上弘美著 (新潮文庫)■
いくつかの新聞や雑誌に連載された文章を集めたエッセイ集。川上弘美さん特有のゆっくりとした時間経過のスタイルがぎゅっと凝縮された1冊になっています。


知らない男の人に「ビールのみますか」とか「煙草をくださいませんか」という要求にも変だとは思いながらもその場の雰囲気が良くて、つい奢ってしまった話(「妻に似ている」)が川上さんの気の良さが見えた話で面白かったです。また川上さんが好きで、本好きなら古本屋の周り方や、本の選び方、本屋さんでの出来事などが窺えたりして、参考にしながらも楽しめます。
何気ない話も、面白く読ませてしまうところが気に入っています。


空中ブランコ … 奥田英朗著 (文藝春秋)■
人間不信に陥っているサーカス団員、尖端恐怖症のやくざ、義父のカツラを取ってみたい衝動にかられる医師、ノーコン病で苦しんでいるプロ野球選手、脅迫症の女流作家など様様な心の病気にアタック。伊良部先生の持ち前の治療法(!?)で回復にチカラを貸す爆笑小説。


これで直木賞!私としては願ったり叶ったりです。
今回も伊良部先生のあどけない行動には笑わせていただきました。
患者を治療するということは頭にあるものの、
頼みもしないのに患者さんと同じ側に立つべく、あとさき構わずまるで子供のように
さっさと行動にでてしまうのが笑えます。それも奇行だし。
自分の思い当たる症状も、この本を読むと病気かもと、
思えてくるのですが、こんな先生がいたら迷わず私は治療に行ってしまうな。
ちょっと厄介な話になることを覚悟、ではあるけれど…。
第3弾があるかどうかは分からないけれど、
何年かかっても続けて書いていってほしいものです。


午前三時のルースター … 垣根涼介著 (文春文庫)■
旅行代理店に勤務する長瀬のもとに得意先である中西社長から、孫の慎一郎のベトナム行きに付き合って欲しいという要望を受けた。有名校の受験合格と旅行が引き換えだと思っていたが、慎一郎本人に問えば、以前ベトナムで家族に内緒で疾走した父親を探しに行くという。父は犯罪に巻き込まれたのか、それとも自ら希望したのか…行く手を阻む出来事、そして困難の末見えた真実とは―。


プロローグから見えないミステリ色に包まれ話に引き込まれてしまいました。
父親を思う慎一郎の専門的なバイクの話や車の構造の話があって、
分かりづらいいところも出てくるのですが、分からないなりにも納得できてしまいます。
登場人物のキャラもそれぞれの職業意識を持った人たちなので、
読んでいても飽きずに何をしでかしてくれるのか楽しみでした。
何といっても良かったのが、
最後の慎一郎の決断、格好いいというか応援したくなりました。
垣根さんは初めて読んだのですが、とてもスピード感ある展開なので、
ハラハラしているうちにあっという間に読み尽くしてしまいました。


垣根さんの作品、今後順を追って読んで行きたいと思います。


死体を買う男 … 歌野晶午著 (光文社文庫)■
作者不詳で月刊誌に連載で掲載されていた『白骨鬼』であったが、事務的な詫び文のみで、突然の連載打ち切り。なぜ一方的に終わってしまったのか、またこの作者は一体誰だったのか…。この『白骨鬼』の真相には、あっというカラクリが仕込まれているよう―だ。


スタートから暫く読んでいても、あまり内容が掴めてこない話でした。
が、なによこれ、どうなっているのよ、それで??と思っているうちに、
ズルズルと歌野ワールドに引き込まれてしまいました。
話の中に話が作られているので、頭の中がもやもや。
途中、合体するところもあるし、記憶力を確かにして読めたら良かったんだけど、
いつもの歌野作品のように何度も何度も騙され、最後までもっていかれ、
気付いたときには、あ〜あまたやられちゃったか、ってね。
何回ひっかかっても、私ってバカね〜という感じで笑って楽しめる作品でした。
この作家さんは、騙される覚悟で読んで楽しみましょう。


生き方 … 稲盛和夫著 (サンマーク出版社)■
著者は京セラ、KDDI(DDI)を創設した稲盛さん。中小企業からスタートし大企業に築かせた人生哲学を語る。考え方がそのまま生き方に反映されやがて結果がでるという話や、今もご自分の戒めとなっている言葉や成功論など他多数の話を紹介されている―。


装丁を見た時、ビジネス書のような感じでとっつきにくそうだし、
女の私にはちょっと関係ない話かもしれないと思っていました。
しかし読んでみると意外と、実生活にも応用できることが数多くあり、
すぐにでも実践してみようかなという話ばかり。
たとえば、自分の得よりも相手の得を考えて行動するとか、
ものごとを難しくせず常にシンプルに考え、
今足りていることを知るという自分の欲を抑える―など。
本書に出てくる生き方は、子供の頃に親に教えられていたものの、
大人になるにつれていつの間にか忘れられてしまったことで、
決して難しいことをしなさい、と言われているわけではありません。
決断に困ったとき、将来について考えたとき、
今どうしておかなければいけないのか、の答えがここにあります。
この本を知るきっかけは雑誌に載っていた好書評。
それを見て読んでみたのですが、特に真新しい話でもなく、
私の場合、人生とは考えによって変わるのだ、という感想ぐらいで、
寝てしまえばすぐに忘れてしまいそうなものでした。なんだかなあ…。


いつでも夢を … 辻内智貴著 (光文社)■
ひとりの女が傘もささずに街角で雨にうたれている。その姿を見捨てられず声をかける、貧乏小説家。そして、いちどは女の前を車で通りすぎたもののその姿になぜか目を惹かれ、傘を持って戻って来た、やくざ―。女はリストカットの傷跡があり、言葉も少なげで安心できる人を求めていた。その2人の男たちは事情をきくともなく、また何の見返りも求めることなくそっと女の身を守り、社会への復帰のためにチカラを尽くしてやり、自分たちもまた昔無くした夢へと希望を繋げる―。


タイトルがとてもロマンティック。
しかも副題が『TOKYOおとぎばなし』―これまたいい感じ。
何か好いことが起きそうな、奇蹟でも舞い降りてくるような予感さえあります。
人柄の良いつれない小説家が女性に近づいて、という部分から、
この作品も辻内さんと似たものや願望が投影されているような感じを受けます―。
話とすれば、精神的に傷ついた満たされない女性が助けられるという
再生物語と言えばいいのか、恋愛小説といえばいいのかという内容。
ありがちな話ですけど、辻内さんを贔屓目で見ている私は、
悩んでいるときっと助けてくれる人が現れる、
かっこいいウルトラマンを描いてしまいます。
どちらにしろ私にとっては、明るい未来が見えきそうな魅力のある話で、
いつも何かを愛していたい、愛するということはとても素敵なことと思える話でした。


セイジ … 辻内智貴著 (筑摩書房)■
「僕」が大学4回生の時、友人から「たまには健康的なことをやらなくては駄目だ」と言われ、自転車と寝袋を渡され旅に出た。下宿を出て暫くを過ごし疲れが溜まったある日、475号線を通っているところに喫茶店『ハウス475』を見つけ何かを食べさせて貰おうと、ふと立ち寄った。その何気ないことが、新たな仲間とともに忘れがたい奇蹟と言っていい出来事に遭遇することとなる―。


いつもながら気になる話の入って行き方に、夢中になりました。
寂れた道路にある、常連客しか来ないような喫茶店に集う仲間たちに、
人間味たっぷりの温かさや静かに流れていく時間が感じられます。
生きていること自体に苦しんでいるセイジをそのまま受け入れて、
否定もせず分かってやるオーナー、そしてサポートしていく周りの人々。
そんなところにあるひとつの大きな事件がおきてしまい、
セイジの思いの中に根付く優しさと乱暴さを見せることになるのですが、
思いもよらない行動がこの話の奇蹟を呼んでしまうのです。
その話全部を語る「僕」にも、辻内さん独特のユーモアを込め、
本来の真面目さも登場人物にプラスして、
読後すっきりとした感じに、まとめあげています。
旅の浪漫に惚れ、もう二度とはない一期一会の大切さを再認識させてくれました。


思いわずらうことなく愉しく生きよ … 江國香織著 (光文社)■
犬山家には、“思いわずらうことなく愉しく生きよ”という家訓が昔からあった。それは、人はいずれ必ず死んでしまうし、それがいつのことだか分からないのだから、というところから来たかんがえ方だ。そこに住んでいる犬山家の3姉妹、上から麻子、治子、育子はそのやり方に倣いそれぞれ自分たちの人生観で恋愛をわたっていく―。


江國さんの恋愛小説は、久々に私の心に刺激を与えてくれました。
同じ家で育ちながら、男性と付き合い方が違う―。
―麻子は暴力をふるう夫を持ちながらも、気持ちは離れられず、
治子は好きな男性は居るけれど、結婚するまでに気持ちは至らず、
育子はその時々、気分の流れるままに男性と過ごす。
どれも極端な設定で、やっぱり話だなあと思ってしまうのですが、
三者三様が読んでいて面白いし、家族の深い絆が、
姉妹ってこういう時に頼りになるんだと気付きました。
それに犬山家の家訓に自由さがあるように、父親が自ら愉しんでいるのが笑えます。
その中でも異様に見えるのは、父親が姉妹にする持ち物検査。
しかし、誰もがその恒例の検査を心待ちにしているのが好い家族関係も
これまた羨ましく、微笑ましいところでした。
癖のあるキャラクターが最後まで飽きさせず読ませてくれ、
私の人生観にも新しい働きかけをしてくれたので、
長編だったけれど、とても満足のいく作品でした。


信さん … 辻内智貴著 (小学館)■
昔、炭坑で栄えた九州北部の町に時を経て、戻ってきた「私」。その昔、「私」が小学校だった頃知り合った、町内に知らぬ人の無い程のフダツキの悪童「信さん」と「私の」母の思い出をふり返り、今は亡き「信さん」の孤独に生きた子供時代を考える―。


昔なつかしい味わいが見えてくる作品でした。
ひとりの困った子供を温かく見つめる友人の親の目や、
自分の親のようにだいじにする、子供の信さん。
悪いことはするけれど、信さんの心根の優しいところが皆にも受け入れられ、
信用されているところが、いい人間関係を保ってると思います。
決して幸せな人生を送ることはなかった信さんだけれど、
人の心に語りかけてくれる何かを残してくれる偉大だった人。
私も分かりやすく真面目な人間になって、人から愛される存在でいたいな。
心に残って、もう1回読み返してみたい本です。